課題図書を読む『おれ、よびだしになる』
今年はコロナで図書館が閉館になり、開館になってからも気楽に利用しにくくて、課題図書を読み始めるのが遅れてしまった。もう7月で子どもたちに読んで欲しいので、今回紹介する絵本と、つぎの1冊で読み納めです。
『おれ、よびだしになる』
中川ひろたか文
石田えりこ絵
アリス館
テレビの大相撲中継を見て、「ぼく」は「よびだし」に憧れる。土俵で、扇子を持ち、足元のすぼんだ袴姿で「ひがーしー、○○うみ~。に~し~……」と、呼びあげをするあの人だ。
久留米に暮らす「ぼく」は5歳のとき、九州場所を見に行き、本物の「よびだし」に運良く声をかけられ、稽古場を見学させてもらう。そこでさらに「よびだし」に憧れて、「おれ、よびだしになる」と決心。毎年、九州場所があるたび稽古場を見学していたが、中学卒業とともに、本当に「よびだし」になる。
絵本では、そのあとの呼び出しになってからの生活、修行を描きつつ、「よびだし」の仕事を紹介していく。それは、私には未知の驚きのことばかりだった。いちばん驚いたのは「よびだし」が、相撲部屋に属していること。小柄に見える(力士の近くで見るから小柄に見えるのだろうが)「よびだし」が、あの大きな力士と寝食をともにしていたのだ。土俵を作るのも、「よびだし」であることも、はじめて知った。
他にも初めて知ることばかりで、最後まで興味深く読んだ。次に大相撲中継を見るときには、きっと「よびだし」に注目するだろう(ただ、今年の夏場所は、国技館で無観客の予定のようで寂しい)。
絵は白黒の絵の一部に色を添えてある。たいていは、要所がほんのりと染めてあるのだが、のぼりや懸賞幕だけは、実物そのものに、色とりどりに塗られている。白黒の絵の中にあって、その派手やかさは、目を引き、効果的だ。懸賞幕は、画家が遊んで、おもしろい描き込みをしているので、よく見てほしい。
力士ではなくて「よびだし」に憧れる子がいるとは、私には思いもつかぬことだった。でも、背筋をしゃんとのばして、張りのある声をあげ独特のふしで呼び上げる姿は、テレビ観戦している小さな子の心をひきつけてもおかしくない。
それにしても、大相撲をテレビで見てたのに、「よびだし」という名も実は知らなかった私に比べて、「ぼく」は、よほど熱心に見ていたのだろう。5歳のときにはすでに、よびだしが太鼓を叩くことも知っている。「ぼく」がテレビを見て扇子を広げ「よびだし」のまねをしている場面では、太鼓のバチのような物も床に転がっている。そしてその奥に見える台所では、お母さんが、きっと息子の声を聞いているのだろう、微笑みながら料理をしている。きっとこの家では、子どもの「好き」を大事にしているのだと思う。
子どもたちは、いろいろな世界に興味を持ち憧れる。その間口を広げて、応援するのが大人の役目じゃないかと思う。
*第66回青少年読書感想文全国コンクール 小学校低学年の部 課題図書。