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課題図書を読む『クニマスは生きていた!』

 あっというまに7月。もう、図書館の課題本は子どもたちへ。ということで、今年はこの作品で最後です。

クニマスは生きていた!
 池田まき子作
 汐文社

     

 秋田県にある、日本で最も深い湖、田沢湖。かつては、そのの美しさから「神秘の湖」と呼ばれ、20種類以上の魚が生息していた。だが、1940年の戦時、国を強化する国策により、水力発電と灌漑のためのダム湖となり、玉川の水を引き入れることになった。玉川は、玉川温泉からの強い酸性の水が流れ込むため「毒水」と呼ばれる酸性水だった。田沢湖の魚はほとんど死滅し、「死の湖」となる。世界中で田沢湖にしか生息していなかったクニマスもまた、生態も習性も解明されていないまま、姿を消した。
 だが、2010年、山梨県の西湖で、クニマスがみつかる。

 クニマスと田沢湖の歴史を、最後のクニマス猟師、三浦久兵衛さんの生涯を中心にして表した作品。とにかくたくさんの情報が盛り込まれている。人名、数値を正確に明記し、資料写真もある。ほぼ時系列で進むが、ときどき時間が前後し、江戸時代の記録や湖の辰子姫伝説まで差しはさんまれているので、歴史的、地理的な感覚が劣る私は、ときどき迷子になり、読むのに時間がかかってしまった。予備知識のないものが読めるよう、専門的なことを丁寧に説明してくれているのはありがたいが、その量が多岐にわたり、しかも多いので、読み物としては、焦点がぼやけてしまった感がある。

 テーマは、作者が「はじめに」で書いているように、「人と野生生物との共存」。

 作品の軸である三浦久兵衛さんの生涯は、8歳(1930年)からはじまる。三浦家は、さかのぼると江戸時代、十代以上前からクニマス漁をしてきた、言わば、クニマス漁師の名家だ。そのため、家に古い文献、書簡が保存されていた。さらに、祖父は漁業組合の理事もしており、人工ふ化に関わっていた。それが久兵衛さんの代になって、漁場の「ホリ」を発電所に渡すことになり、廃業せざるを得なくなった。その口惜しさ、クニマス猟師としての誇りが、久兵衛さんを突き動かし、家に残る資料をもとにクニマス探しが始まり、人々にクニマスが知られるようになる。
 
 この久兵衛さんの物語を進めるうえで、当然、二つのことが絡んでくる。ひとつは、クニマスの絶滅と再発見までの経緯。もうひとつは、田沢湖の変遷と今後だ。

 田沢湖で絶滅したはずのクニマスが、遠く離れた西湖にいたのは、実は、人工ふ化卵の分譲という人為的な行為からだった。その分譲は祖父の代1935年に行われており、そこからなんと75年の期間をえて発見されるのは、本当に驚くべき奇跡である。
 だが、ひねくれた見方をすれば、人為的な行為により絶滅させらたクニマスが、人為的な行為で命を繋いだということになる。人工ふ化と分譲は、クニマスに希少価値があるから行われた。人を豊かにするための人為的行為だ。でも、繁殖しにくいクニマスは、西湖の生態系を(おそらく)壊すことなく、喝采して迎えられた。
 一方で、田沢湖のダム建設も、戦争という背景があるもののやはり、人を豊かにするための人為的行為のはずだった。電気が必要だったし、玉川の水をひいても湖の水で薄めれば何の影響もないと役人たちは考えていた。だが、結果として、田沢湖を死の湖にしてしまった。
 ここに、自然に影響を及ぼす人の身勝手さと責任を感じる。人は、より豊かに生きるために自然を都合よく変えてきたし、これからもそうするだろう。でも、そのやり方によって、良い結果も、悪い結果も生まれる。この地球で人がいつまでも豊かに暮らせるかどうか、人の叡智が試されているのだ。

 くずれた生態系が、巡り巡って、人に脅威を与えるようになって、人ははじめて、生態系、生物多様性の大切さに気づいた。「人と野生生物との共存」は、きれいに聞こえるけれど、やはり人が中心だ。あくまでも人の未来永劫の生存のために、どうバランスをとっていくのか、なのだ。作品を読んで、そんなことを考えた。

*第64回青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部 課題図書

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