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課題図書を読む『こんぴら狗』

 巻末には参考文献が細かな字でびっしり。あとがきによれば、この作品にとりりかかった時1歳だった作者の飼い犬が、完成時には6歳になったという。5年の月日を費やして、きっちりと調べあげて書いた作者の情熱が感じられる。

こんぴら狗 (くもんの児童文学)
 今井恭子作
 いぬんこ画
 くもん出版

     

 文政3年(1820年)、江戸の線香問屋の12歳の娘、弥生は、生まれてすぐに捨てられた子犬を拾い、ムツキと名付ける。ムツキは瀕死の状態だったが、弥生の手厚い看護で命をとりとめ、元気になり、弥生になついた。
 3年後、弥生の兄が病死し、そのあと弥生も風邪をひいてから病に伏せるようになった。心配した両親は神さまにおすがりするしかないと、ムツキをこんぴら狗の旅に出すことにする。
 こんぴら狗とは、讃岐の金毘羅さんへ飼い主に代わって参拝にいく犬のこと。木札に飼い主の氏名や住所を書き、初穂料や道中の餌代の入った銭袋を首にさげて、旅人から旅人へと託されて、金毘羅参詣へいき、お札をもらって帰ってくるのだ。この作品はフィクションだが、こんぴら狗がいたは本当らしい。
 はじめムツキは、知り合い瀬戸物問屋の隠居の京見物についていき、京都から、商人などの旅人に託される予定だった。出会う人たちは、ムツキがこんぴら狗と知るとたいてい、ありがたがり、手助けした。箱根の関所では相好をくずした役人から「気をつけていけ」と声をかけられる。大井川の渡しではムツキが輦台からおちるとうハプニングもあったが、順調に進んでいった。だが、伊勢湾を渡る船が大雨に会い、ご隠居が風邪をひいてから、ムツキの旅に暗雲がただよいはじめる。

 江戸から東海道をくだり京都へ。さらに大阪から四国へと、犬が旅する。もちろん犬には道はわからないし、海も渡らなければならない。参詣の意味も知らない。そんな遠くへ行くのは、いくらなんでも無理でしょうと私は思った。
 だが、江戸時代、科学が進んでいないからこそ、人々の信仰は今では信じられないくらい厚かった。こんぴら狗に託された飼い主の願いをなんとかかなえてあげたいと、見も知らぬ人々がそれぞれのやり方でムツキに力をかす。その人々の情の厚さ、純朴さに驚かされた。

 作品では、ムツキの旅した道のりをたどりながら、当時の人々の暮らしぶりや社会を紹介しつつ、ムツキが出会った人たちの物語の断片で紡ぎついでいく。口達者な偽薬売り、淡い恋をする芸者見習いと水主見習いの少年など、その時代を生きぬいている庶民の姿が生き生きとうきあがってくる。生真面目な役人たちの姿は滑稽だ。こんぴら狗と知りながら、路頭に迷わせては恥と、宿場から宿場への引き継ぎに奮闘し、ついにはムツキを無理やりお籠に乗せて運ぼうとする。
 だが、なんといっても心を打ったのは、伊勢参りから帰る油問屋の母子だ。生まれつき目が不自由な息子の視力回復を祈願する旅で、母は、ムツキと息子の触れ合いを通して、息子の成長を感じ、息子への自分の接し方を考えていく。

 ムツキがどうか使命を果たせますようにと願いながら、次から次へと出会う風物や出来事、人々で、飽きることなく、一気に面白く読める作品。大人にもお薦めだ。

*第64回青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部 課題図書

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