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課題図書を読む『太陽と月の大地』

 表紙、見返しの絵が美しい本。スペインのほんの短い期間を描いた歴史ものだが、「はじめに」と「あとがき」に歴史的背景が解説してあるので、知識がなくても読める。ただ、地理的な感覚がつかめないのと、やたらと長い名前が出てきて、読むのに苦労した。本文が156ページと短いなかに、たくさんの物語が詰め込まれているせいかもしれない。

太陽と月の大地 (世界傑作童話シリーズ)
 コンチャ・ロペス=ナルバエス文
 宇野和美訳
 松本里美絵
 福音館書店

     

 1492年、スペインでは、カトリックの王であるイサベル女王とフェルナンド王が、アラブ人のイスラム王朝が支配していたグラナダを制圧し、スペインを支配した。初めイスラム教徒は、キリスト教徒と共存できたが、1502年より、キリスト教に改宗しなければ国を去るよう勅令が下る。改宗したイスラム教徒は「モリスコ」と呼ばれた(イスラム教徒は「モーロ」)。さらに1526年にはアラビア語、アラビアの生活様式の禁止令がでて、1567年にはモーロの習慣が禁止された。1567年モリスコたちは王をたてて蜂起を決心。1568年12月に始まった反乱は2年以上続いて鎮圧され、1609年にはモリスコの国外追放令が出た。
 
 この作品は、最終章の手紙をのぞいて、1566年春から、おそらくは1571年の9月末まで。グラナダの地にずっと暮らしてきたモリスコの家族と、その地をおさめるキリスト教徒の伯爵家――両家が悲惨な争いに翻弄されていく様を、モリコスの若者エルナンドと伯爵の娘マリアの悲恋を中心に描いている。
 二つの家族は、領主・領民の立場の違いがあるものの友好関係で結ばれていた。特に祖父ディエゴが少年のころは、互いの宗教と風習を尊重し合っていた。老いたディエゴが切なく思い出すのは、伯爵家ゴンサロ少年と過ごした無邪気な時間だ。シエラネバダの山に登ってアフリカの海岸を二人並んで見る場面は美しい。キリスト教とイスラム教の狭間にあるその地に、立場が反対の二人が、唯一無二の友として立つのだ。二人はたがいに、宗教、人種、身分の関係ない、ひとりの人間と人間として向き合っている。
 エルナンドとマリアも、そうしたわけ隔てのない幼馴染だったが、年頃になり、互いに恋心を抱くようになる。伯爵の娘マリアは素直な気持ちをままでいられたが、モリスコとして苦渋を味わうエルナンドは、キリスト教徒たちに支配された恨みや悲しみに打ちひしがれてしまう。

 イスラム教とキリスト教が対立するなか、それぞれの側で、人々の気持ちは一応ではない。異教徒を徹底的に排除したいもの、宗教にかかわりのなく人間として相手を見るもの。伯爵はモリスコがこっそりイスラム教の儀式をするのに寛容だが、伯爵の息子でマリアの兄イニゴは、モリスコを疑い、危険だと感じている。エルナンドの兄ミゲルは、キリスト教徒と傷害事件を起こして逃げ、反乱軍に参加しながらも、罪のないキリスト教徒たちを逃そうとする。エルナンドのように、反乱に参加しないイスラム教徒もいる。
 だが、時の流れは容赦なく、その土地の人々を呑みこんでいく。この戦いでエルナンドの一家にも、伯爵家にも死者がでた。多くの人が無駄に亡くなり、幸せを奪われる。この無慈悲な戦いを見ていると、なぜ、争わなければならなかったのかと思う。ディエゴ少年とゴンサロ少年のように、共存する道もあるはずなのに。支配欲、権力を脅かされる恐れ。そんな人間の愚かさ弱さが、悲しい戦いを生み出す。
 この愚かな戦いは、今も世界中で繰り返されている。人をひとりの人間として見た時、宗教や人種、文化、風習の違いなど、とるに足らない違いで尊重し合えるはずなのになぜ?と思う。

 ところで作中には、サンフアンの夜やラマダーンの儀式が描かれ、グラナダに残る恋の伝説が挿入されている。血なまぐさい戦いの物語のなかに、異国情緒あふれるロマンチックな香りがふっと漂い、読者をひととき楽しませてくれる。

 表題の「太陽と月の大地」は、作中に出てくる魔女が、エルナンドとマリアの将来を予言し、そのなかで「太陽はキリスト教徒の味方」「モーロに寄りそう月」とつぶやいたことからわかるように、キリスト教徒とイスラム教徒を暗示している。グラナダは二つの宗教が交わる大地だ。
 魔女は、太陽の強い日差しが月の光を隠すという。でも、太陽と月はいつも、空に共存しているのだ。
 
*第64回青少年読書感想文全国コンクール 中学校の部 課題図書

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