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課題図書を読む『森のおくから むかし、カナダであった ほんとうのはなし』

 作者あとがきによれば、作者の亡くなった祖父が本当に体験した出来事とのこと。作者は、祖父が母に話し、母が作者に話したこの驚くべき出来事を、自分の子どもに話してやりたいと、書いている。家族に語り継がれてきた本当の話が、こうして絵本になって、合衆国で、日本で、世界に語り継がれることになった。きっと多くの人の印象に残るはずだ。

森のおくから―むかし、カナダであったほんとうのはなし
 レベッカ・ボンド作
 もりうちすみこ訳
 ゴブリン書房

     

 1914年。10歳のアントニオはカナダの森のなかのゴーガンダ湖のほとりに住んでいた。おかあさんがホテルをやっていたからだ。ホテルは3階建てで、1階は食堂、2階は宿泊の個室、3階は大部屋でいくつも2段ベッドが並んでいた。大部屋の客は、森で木を切ったり、銀の鉱石を掘り出したり、狩りをして長期間泊まつた。小さなアントニオは、ホテルで働く人や泊まる人の中に入って、遊んだり、話を聞いたりした。森に行けば、動物の足跡や寝た跡をみつけたが、実際に動物の姿を見たことはなかった。動物たちは、アントニオが行けるより、もっと深い森に身を隠していたのだ。
 晴天が続いて、森がからからにかわいたある日、森から煙がたちのぼった。山火事が起きたのだ。火はあっというまに燃え広がり、アントニオたち人間の住むところまでせまつてきた。アントニオもお母さんも宿泊客もみな、ゴーガンダ湖に逃げるしかなかった。火はどんどん激しくなり、アントニオたちは水につかって、どんどん深いところまで逃げた。そのとき、信じられないことが起きる。森から動物たちが逃げてきたのだ……。

 まるで映画のような、神々しいお話に、本当にこんなことがあるなんて……と感嘆して読んだ。当時たった5歳だったアントニオの生涯忘れない記憶になったというのも、頷ける。
 人間が動物を狩り、オオカミはシカを襲い、キツネはウサギを追う。そうした本来の習性を忘れて、炎という圧倒的な怪物を前に、人間と動物がふしぎな連帯感で繋がった。荒れ狂う炎の前には、人も動物も少しも変わらない、無力な小さい生き物だったのだ。
 出来事が終息した後、人間と動物は、静かに元の場所に戻っていく。そこには静けさが漂っていて、この驚くべき出来事の神秘さをさらに強く感じた。

 ところで、絵本の前半では、約100年前のカナダの森のホテルが、5歳のアントニオを介して紹介されている。作者の祖父の話を元に描かれたのだろう。セピア色を基調にしたページは、古い時代への郷愁と好奇心をかきたてる。当時の生活の一端が映し出された、この前半の数ページも、不思議さの漂う後半に劣らず魅力的だ。
 森で働く男たちが、何人もいっしょに寝泊りし、男たちの扱う道具とタバコと体臭がこもった部屋。様々な国の言葉がいきかい、がやがやと騒がしくても、明かりが消えて真っ暗になれば、労働で疲れた体はすぐに眠り落ち、外の葉擦れのおささえ聞こえるほどしんとする。そこは、汗臭い人間の血が通う空間だ。
 幼いアントニオは、きっとこうしたたくましい男たちを憧れの目で見ていたことだろう。男たちも、自由に部屋に出入りするアントニオを、宿のぼうやとして、受け入れ、かわいがっていただろう。アントニオのお母さんのホテルは、人間同士の垣根が低い場所だったのだと思う。

 当時のカナダの森で働く人々を知り、また動物たちとの神秘的なつながりを疑似体験ができる。子どもにも大人にも印象深い絵本になるだろう。、

*第64回青少年読書感想文全国コンクール 小学校中学年の部 課題図書

 作者のレベッカ・ボンドは、2017年8月(この作品の邦訳がでてすぐだ!)に45歳で亡くなったという。今まで、『あかちゃんのゆりかご (世界の絵本)』『牛をかぶったカメラマン―キーアトン兄弟の物語』などの作品を読んだことがあり、絵が素晴らしく、これからが楽しみな作家だと思っていたのでショック! パブリリッシャ―ズ・ウィークリーの記事に、" died on August 2 after a brief illness." とあった。あっけなく亡くなってしまったのだろうか? 

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