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2018年5月30日 (水)

課題図書を読む『わたしがいどんだ戦い 1939年』

 昨年の秋に読んだ作品が課題図書になったので再読しました。主人公は実の母親から信じられないほどの虐待を受けて育ちます。程度に大きな差があるでしょうが、親から認めてもらえない辛さを多くの人が知っているでしょう。認められなかった人、認めてあげられなかった人に、学ぶところの多い作品です。

わたしがいどんだ戦い 1939年
 キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー作
 大作道子訳
 評論社

     

 エイダは、右足が足首で内にねじまがって(内反足で)生まれた。母親は彼女を奇形で醜いからと家から出さないで育てた。ときには戸棚に押し込めるという折檻もした。弟ジェイミーがもうすぐ学校へ行くことになり、エイダは母親に気にいられたい、自分も外に出たいと思いから、秘かに歩行の練習をはじめる。
 1939年、戦争が始まり、ロンドンの子どもは疎開した。エイダはロンドンに残ることにになっていたが、秘かに弟のジェイミーについていき、ケント州に疎開する。二人を受け入れたのは、鬱気質の女性スーザンだった。
 その時のスーザンは、同居の親友を3年前に亡くした悲しみから、まだぬけだせずにいた。子どものことを何も知らないので、疎開児童を預かりたくはなかった。だが、引き受けたからには、できる限りの世話をしようとした。姉弟を風呂に入れ、食事をきちんととらせて、服を買いあたえ、清潔なシーツで休ませた。エイダの足を医者に診せ、松葉杖をもらい、手術をすればよくなると聞けば、母親に許可を得るための手紙も出した。こうして、姉弟の面倒を見ることで、スーザンは前向きに生き始め、心からエイダとジェイミーを愛するようになる。

 アパートの一室が全世界だったエイダにとって、スーザンとの暮らしは目新しいことばかりだ。スープをスプーンで飲むこささえ初めてだ。スーザンは自由に外へ出してくれた。外で、エイダは、スーザンが飼っているポニーと仲良くなり、乗ることもできるようになった。落馬した女の子マギーを助けて、マギーとも友だちになり、マギーの家で馬の世話をするグライムズさんとも親しくなる。

 しかしスーザンの愛情を、エイダは素直に受けいれられなかった。醜い自分に愛される価値はない、誰かに愛されるはずはないと思い、反発し、スーザンの愛情表現に怒りを爆発させてしまう。それでもスーザンは辛抱強くエイダを抱きしめ、見守りつづける。

 戦火はケント州の村にも近づいてきた。村は大勢の負傷兵を受け入れ、エイダはその介護に加わる。さらに、ある大活躍して、自信を持ち始めた頃、疎開費用を政府に請求された母親が迎えに来た……。

 タイトルにある「わたしがいどんだ戦い」、つまりは、エイダの戦い(Tge War)は、第二次世界大戦がきっかけで始まるが、大戦とは別の、エイダの自分自身との戦いだ。
 ねじれた足で歩く戦いからはじまり、アパートから外へ逃げ出す戦い、心を開く戦い、仕事をやり遂げる戦い、自分の価値を認める戦い、人を信頼する戦い、母親から決別する戦い、自由に生きる戦いと続いていく。
 エイダが戦いつつづけ、前進できたのは、エイダの中に、自分を生きようとする生命の火が燃えていたからに違いないが、それと同じくらい、いやそれ以上に聡明な女性スーザンの存在が大きい。スーザンは子ども好きではなく、愛情を振りまくタイプではない。感情ではなく理性で動く。初めは、淡々とエイダたちの世話をした。愛情を押しつけず、愛情の見返りも求めない。

 エイダにとって、愛されることは自分にふさわしくないことで、愛されると、得体の知れない、恐ろしいさを感じてしまう。そのことが、如実に表されているは、クリスマスにスーザンが、ワンピースを縫ってプレゼントしたときだ。それまでに、エイダとスーザンは、徐々に心の交流ができるようになり、エイダはスーザンに、スーザンはエイダにプレゼントを準備していた。
 きっと、ワンピースを贈られたエイダが涙を流して喜ぶだろう。私は、心にこみあげるあたたかい気持ちを感じながら、感動の場面を期待して読み進んだ。ところがエイダは、見苦しい自分にこれは着られないといって、パニックに陥ったのだ。虐待され続けて育つと、ここまで屈折してしまうものかと、私は本当に驚いた。

 極限状態から、自力ではいだし、何度も危機に陥りながら、自分と戦いに勝利しつづけたエイダ。彼女に明るい未来が開けたことに、私は、希望と大きなエネルギーをもらった。
 
*第64回青少年読書感想文全国コンクール 高校の部 課題図書

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