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課題図書を読む『霧のなかの白い犬』

 この作品は、昨年に1度読んだ。そのときは、あちこちに話が飛ぶ前半にほとほとに疲れ、謎が解き明かされる後半で一気に読み終えた、読み応えがあるというより、なぜこれほど複雑に書くのか?と疑問ばかりだった。けれど、再読の今回は、あちこち飛ぶ話題の意味がはじめからわかり、そのつながりも理解でき、メッセージがよりくっきりとした。小学生高学年の課題図書としては、難易度がかなり高い作品だ。

霧のなかの白い犬
 アン・ブース作
 杉田七重訳
 橋甲賢亀絵
 あかね書房

     

 イギリスが舞台。ジェシーの祖母は認知症を発症し入院する。だが、何かに脅えていてひどくとり乱し、飼うことにしていた白い子犬を、ジェシーといとこのフラン、友だちのケイトに世話を頼む。
 ケイトはジェシーの親友で、車いすに乗っている。だが、率直で活発。スポーツも万能でシッティング・バレーボールでは、パラリンピックの出場の可能性があるくらいだ。祖母はこのケイトのことを特に心配し、JMと書いた紙きれを、ジェシーやケイトにお守りにと渡したりする。
 いとこのフランは、両親が離婚して、ジェシーと同じ学校に転校してきた。以前は親切だったが、今は祖母に対してもケイトに対しても思いやりがない。弱いものいじめをする悪い友だちとつきあっていて、生活も荒れている。
 町には外国人労働者が増えていて、人々はあまりいい顔をしていなかった。ジェシーの父親も、外国人労働者が増えたせいで、事業が立ちいかなくなり、持ち家を売り払い、フランスに出稼ぎに行ったのだ。
 ある日、祖母の家に、ドイツから宛名違いの絵葉書が届く。また、祖母の家から、白い犬をつれた少女の写真がみつかる。絵葉書の真の宛先と写真の少女の正体を探っていくうちに、ジェシーは祖母の意外な過去を知る。それは、学校でちょうど学んでいた第2次世界大戦のいまわしい歴史とつながっていた。

 第2次世界大戦の体験を語れる人の数が減ってきた最近では、あの悲劇を繰り返さないために大戦のことを語り継ぐ作品が児童文学でも増えてきたように思う。この作品は、現代の社会問題を描きだして、今があの時代に似てきていないか? 人々の考え方はななにかに踊らされゆがめられていないかか? 何かを思い込まされていないか? 警鐘を鳴らしている。

 ナチスといえば、ユダヤ人の虐殺が第一に頭に浮かぶ。だが、障害者、高齢者も役に立たないものとして抹消されていた。退廃芸術として、ヒットラーの基準にそれた絵画が押収され、音楽が禁じられ、本が焼かれた。雑種犬は嫌われ、黒毛のシェパードのみを真のジャーマン・シェパードとして認められ、ユダヤ人の飼っているペットは殺処分された。

 なぜ、人々はナチスのいいなりになったのか? 信じられないと、今の私たちは思う。ジェシーたちが学校の授業で、ちょび髭のヒットラーの演説のフィルムを見て、「どうしてみんな、こんな人についていこうと思ったのか、わたしにはわけがわからない」と思い、彼の号令で行進する兵士たちの姿を滑稽に思ったように。
 なぜ、こんな理不尽なことが許されたか?の答えを、ジェシーの同級生ベンの祖母が、学校に招かれて授業で語る。ベンの祖母は、ユダヤ系ドイツ人で、強制収容所に入れられたが生き残りだった。彼女の話は子どもたちにショックを与えた。当時のドイツの学校の教科書にとんでもないことが書かれていて、子どもたちはそれを信じていたのだ。ナチスの考えにほんの少しでも反対する人たちは、残酷な仕打ちをされて、人々はナチスの言いなりになるしかなかった。社会はナチスにのみこまれ、人々はその流れにのってしまったのだ。

 現代はどうだろう。こうした負の歴史から学んでいするはずだし、人種差別は否定されているし、言論の自由もあるから大丈夫……本当にそうだろうか? 外国人に対する偏見はないのか? 外国人が起こした犯罪を私たちはどう感じるのか? ヘイトスピーチはなぜされるのか? 私たちはどう感じてるのか? どう考えるのか? その感情や考えはどこからくるのか? 私たちだって、いつ恐ろしい道に誘導されるかもしれないし、知らず知らずもう足を向けてしまっているかもしれない。

 ジェシーは体験を通して偏見に気づいていく。外国人労働者は、ジェシーにとって、父親の事業が失敗させた原因となった人たちでとても好きにはなれない。母や町の人たちも疎ましく思っている。ジェシーの叔母も病院で祖母が外国人より優先してみてもらえないのに憤っていた。新聞にも「不法就労移民」が国民のお金を奪っていると書いてあった。なにか事件が起これば、外国労働者がまず疑われる。でも、父親も出稼ぎ先のフランスでは外国人だ。
 いとこのフランの仲間たちは、おそらく深い考えもなく、障害者や外国人労働者など弱い立場を馬鹿にしてからかう。フランは、自分の考えは違っても、その仲間から外れたくなくて、なんとなく合わせざるをえない。そうした考えのない小さなことからなにが招かれるか、フランは身を持って知っていく。
 こうして作品は、ジェシーとフラン、障害者のケイト、さらにアフガニスタンから亡命してきたヤスミンを通して、読者に社会についての自分との関係を考えさせる。

 また、昔話が、世界を理解させてくれるものとして利用されているのも興味深い。グリム童話が出版される前に語り継がれいた「赤ずきん」、ぞっとするグリム童話の「盗賊の花嫁」が作中で紹介される。ジェシーが学校の宿題で書いた現代のおとぎ話では、子どもの時のおばあちゃんを主人公にして、ナチスに翻弄された当時をわかりやすく描きだしている。『昔話の魔力』の著者ブルーノ・ベッテルハイムの名も出てきて驚かされた。
 昔話がこの世を映しだしているのなら、私たちも日々暮らすことで、自身のお話を紡ぎ出しているともいえよう。そのお話が、どうか、どんな困難があってもハッピーエンドでありますように。

*第63回青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部 課題図書

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