最近のトラックバック

« J保育園 年長さん ストーリーテリングによるおはなし会 はじめて語るおはなし | トップページ | H小学校 朝の読み聞かせ 1年2組 子どもたちにわかりにくいところ »

課題図書を読む『フラダン』

 表紙で6人の男女の若者が、お日さまのように明るく笑いかけてくる。タイトルから見て、フラダンスのお話のようだ。男性のフラダンスってあるの? などと思いながら読み始めた

フラダン (Sunnyside Books)
 古内一絵作
 小峰書店

     

 主人公の穰は、高2になって水泳部をやめた。同学年でそりの合わない松下が次期主将になるからだ。松下は、穣に勝手にライバル心を燃やし、弱いものに強く、強いものにへつらう。そんなやつと部活をやる気はない。とはいうものの、穣は放課後、暇を持て余す。そんな穰の前に、フラ愛好会アーヌエヌエ・オハナの会長、詩織が突然現れ、強引に入会を勧める。しかも穣の「体が目当てだ」とまで言って迫ってくる。穣はことわり続けるが、同じころ転校生がやってきて、彼と一緒に無理矢理入会させられてしまう。
 転校生は、宙彦(おきひこ)といい、前はシンガポールのインタースクールにいた。抜群に素晴らしい容姿に恵まれ、帰国子女のせいか、何をやるのもスマートだ。女の子たちにもモテモテで、すべての子に平等に愛想をふりまく。
 フラダン愛好会の会員は2年女子が詩織と副会長の基子、穣と同じクラスのマヤ。1年女子が4人。そして、1年男子は、柔道部兼任の夏目と色白でもやしのような薄葉の2人だった。
 初めは、女のやる腰ふりダンスなんか、ちゃらくて、とてもやっていられないと思った穣だが、やり始めてみると、意外に身体能力が必要で、きついとわかる。フラダンスやタヒチアンダンスの歴史を読んでその深さを知り、会員たちの真剣さに打たれる。練習を重ね、慰問訪問へいくうち、次第にフラダンスにのめりこんでいく。
 詩織たちの目標はフラガールズ甲子園の男女混合フラでの優勝だった。
 入会者がさらに増え優勝まっしぐらのはずだったが、あることで詩織がショックを受けて落ち込み、会員の間にも亀裂が入り……。

 こうあらすじを書くと、友情と恋愛をからめた高校生の熱血部活物語と思われるだろう。確かにそうなのだが、実は、ずしんと重いテーマを抱え込んでいる。舞台が福島県立工業高校といえば分るだろう。転校生の宙彦以外は、みな小学生(穣は6年生)だった時、震災に遭っているのだ。だが彼らを「被災者」とひとからげにしてはいけない。それぞれ事情が異なる。被害のほとんどなかったもの、家族をなくしたもの、家をなくしたもの、家はあるのに帰還困難区域のため帰れないもの、原発の関係者家族……。被災者の苦しみは、いろいろな感情や思いが複雑にからみあい、被害者同士でも計りかねている。だから、互いに口にすることを避けてしまう。思春期で、ただでさえ他者を意識し始めるころに、常識を覆す不条理な体験をし、極端な差が生まれ、その混沌から抜け出すことができずに立ちすくんでしまう。自分では何もできない。それを主人公の穰は「閉塞感」と言っている。作品では、それぞれ事情の異なる高校生たちが、フラダンスをともにする中で、自分のことを語りはじめ、ぶちまけ、分かりあい、開放的になっていく。
 福島から遠く離れた地に住む私は、福島の子どもたちが、現在も体験している苦しみをまったく気付いていなかったので、まずその実情に驚かされ、読んでよかったと思った。

 だがこの作品のすごいのところは、このように重いテーマをしっかりと伝えながら、とんでなく楽しく読ませてくれることだ。まず、物語を、穣の心の声が高校生らしい視点と言葉で語っていくのだが、それがとても軽妙で、非常に面白い。空気を読まずに入会を迫る詩織(ストーカー女)と宙彦(シンガポール男)を「非日常コンビ」と呼び、色白をかくすために全身に濃いファンデーションを塗られたもやし男子を「瀕死のナナフシ」と比喩する。自分を慕っていると思いこんでいるマヤへの敏感な視線と、マヤの言動への穣の気持ちの微妙な揺れや、穣と宙彦の軽いノリの会話も楽しく、わたしは何度も吹き出しそうになって読んだ。その同じ口が、震災なシビアな側面を真剣に語っていくと、心にずしんと入ってくる。
 登場人物がすべて個性的で、際立っているのもいい。とくに宙彦は日本人に珍しいタイプだけに楽しい。震災を体験していない帰国子女の彼が登場人物に加わることで、風穴をあけ、希望を吹きこんだといえるかもしれない。外見がまったく違うけれど仲のよい1年生男子の夏目と薄葉のつながりには泣かされた。そして、ひときわ魅力的なのは、後半にでてくるヤンキーな浜子だ。包み隠しのないまっすぐな人だと思う。表紙裏に並んで描かれているのはこの浜子ともやしみたいな薄葉。読み終わって見て、ふふっと思う。

 クライマックスは、フラガールズ甲子園でのパフォーマンス。課題曲の歌詞と彼らの思いが重なって、全力で踊る彼らに涙が止まらなかった。愛好会の名前、アーヌエヌエ・オハナ(虹のファミリー)ができあがる瞬間を見ることができた。

 さて、エピローグのラストを手帳に書き写しておきたいと私は思う。現実社会を生きていて、ときに閉塞感に襲われるとき自分をはげますために。
 
*第63回青少年読書感想文全国コンクール 高校の部 課題図書

 面白く読めるし、考えさせられるところがたくさんあるし、読書感想文が書きやすいんじゃないかと思う。

« J保育園 年長さん ストーリーテリングによるおはなし会 はじめて語るおはなし | トップページ | H小学校 朝の読み聞かせ 1年2組 子どもたちにわかりにくいところ »

児童読みもの」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/148116/65407030

この記事へのトラックバック一覧です: 課題図書を読む『フラダン』:

« J保育園 年長さん ストーリーテリングによるおはなし会 はじめて語るおはなし | トップページ | H小学校 朝の読み聞かせ 1年2組 子どもたちにわかりにくいところ »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

Amazonアソシエイト

  • 野はら花文庫は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。
  • Amazon、Amazon.co.jpおよびAmazon.co.jpロゴは、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
無料ブログはココログ