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2017年6月22日 (木)

課題図書を読む『ストロベリーライフ』

 作者は直木賞作家。主人公は36歳。「えっ? 課題図書?」と思ったのだが、未来に向ける明るい展望に、高校生に読んでもらいたいと思った。

ストロベリーライフ
 荻原浩作
 毎日新聞出版社

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 恵介は、東京に出てグラフィックデザイナーとなり、妻子を持って、2年前に独立したが、最近仕事は途絶え、行き詰まっていた。そこへ、静岡で農業を営む実家の父が倒れたと連絡が入る。帰郷すると、父親は脳梗塞で、一命はとりとめたものの先が見えない状態だった。
 しばらくは3人の姉と恵介、母親で順番に父親に付き添うことになった。だが問題は両親二人だけでやっていた農業だ。今は、ハウスで育てている苺の出荷の真っ最中。母親ひとりにまかせこともできず、恵介は手伝い始めるが、苺栽培はまったくのド素人。妻の美月はいい顔をせず、5歳の息子と帰ってしまった。
 恵介はグラフィックデザンの仕事をあきらめるつもりはなかった。けれども、苺が育っているかぎりはやめるわけにはいかない。今シーズンだけ頑張ろうと、恵介は、東京と静岡を行き来しながら、父親の農業日誌やガイドブック、母親の言葉足らずの説明、友人の苺農家の教えをたよりに、試行錯誤して奮闘する。そして、いつのまにか、東京へ帰るまを惜しんで苺栽培やほかの農作業をするようになり……。

 やむをえず農業をおろおろと手伝っていた恵介が、心を決めてある計画に向けてつき進んでいく。それとともに、家族が、大きな単位でも小さな単位でも再構成がなされていく。農業の現状と新しい形のひとつを示す物語であり、家族の物語と言えるだろう。
 恵介が抜群の行動力を見せる後半は、爽快で非常におもしろい。冷静に考えれば、農業経験2年目でそんなに思い通りにいくはずないだろうが、読んでいる間はみじんも疑問を感じない。恵介を応援して、夢中で一気に読んだ。
 それというのも、事細かく丁寧に描かれた前半がリアリティに満ち、後半の展開に説得力を持たせているからだろう。物語はほとんど恵介の視線からだが、ときおり妻美月の視線が挟み込まれ、特に人物がありありと見えるように描かれている。恵介にも美月にも共感できるところがたくさんある。たとえば、私がまず共感したのは、恵介がいつからか帰郷して東京へ帰るとき、「脱出」の気分を感じて、一抹の安堵を感じるようになったと考えるところだ。私もいまだにそうだ。
 父親が倒れるという突然の変化に、恵介夫妻や姉妹の家族が心配しながらも、先を案じて戸惑い、いざこざがおきる様子は、実際によくある家族の姿だろう。母親は、夫のやりかけた仕事を続けようと、もくもくと頑張る。働き者でいかにも農家の主婦らしい。でも私は思う。夫が倒れたのはたいへんだった。でも、子どもたちが集まってきて、母親は嬉しかったんじゃないだろうか。、また、農作業をするなかで、いままで頑固としか感じていなかった父親の心情を、恵介が次第に理解していくのが、心に触れてあたたかい。
 農作業についても事細かに描かれている。農薬についてや苺の収穫や出荷について、葉かきや芽かきといった作業……。私は家庭菜園ぐらいの知識がないが、とても興味が持てた。苺栽培について、いっぱしの知恵がついた気がしている。
 また、静岡が舞台のこの物語では、富士山がうまく使われている。富士山のふもとに暮らすものにとっては富士山は当たり前の存在で、恵介にとっては大きくそびえる姿は鬱陶しい、でも消えてほしいと思ったことはにないと初め書かれていたのが、私には新鮮だった。その富士山への恵介の気持ちは、恵介の心の変化とともに変わっていき、恵介は文字通り富士山を使う。
 他にも恵介の姉たちの家族の問題が挟まっていたり、農地の相続についての説明があったり、おいしそうな野菜料理のしかたがあったり、作品のなかに、なまの人間がいて、現実的な生活があって、私は最初から最後まで物語にはいりこんで読むことができた。ぜひ、読んで欲しい。思い通りにいかない現実のなかで、生きる元気をもらえる。

*第63回青少年読書感想文全国コンクール 高校の部 課題図書

2017.06.22加筆

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