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2017年5月23日 (火)

課題図書を読む『ホイッパーウィル川の伝説』

 二人の作者が、それぞれに二つの世界を著して、うつくしいアンサンブルを奏でた作品。 

ホイッパーウィル川の伝説
 キャシー・アッペルト
 アリスン・マギー 共著
 吉井知代子訳
 あすなろ書房

     

 11歳のジュールズは7年前にママを亡くしたが、石集めに興味を持ち、1歳上の姉シルヴィとパパと幸せに暮らしていた。シルヴィはいい姉だけれど、とても足が速くて時々ジュールズをおいてけぼりにして、ジュールズを怒らせる。
 家の敷地の森に流れるホイッパーウィル川には、願い石を投げこむと、切なる願いが叶うと言われる奈落の淵があった。淵には近づいてはいけないとパパに言われていたけれど、子どもたちは石を投げに行った。足の速いシルヴィの願いは「もっと速く走れますように」。友だちのサムは、今は「ピューマに遭えますように」。少し前まで「アフガニスタンに出征した兄のエルクが無事にもどってきますように」だったが、願いがかなえられて兄が帰ってきたのだ。でも、エルクは元の楽しい兄ではなかった。一緒に出征した親友のジークは戦死してしまったからだ。
 その年最後の雪が降った春の日、シルヴィは奈落の淵にひとりで走っていき、そのまま行方不明になる。ジュールズは、姉を失ったことを受け入れられなかった。あの時、姉をどうしてひきとめられなかったのか? 後悔しジュールズの心は乱れるばかりだ。

 その頃、森で3びきの子ギツネが生まれる。その中の一匹、メスのキツネのセナは、ただのキツネではなく、ケネンだった。ケネンとは魂とつながるもので、なにかを助けるためにやってきて、使命を果たしたら祖先のいる安息の地に戻るといわれていた。森を歩き回るようになったセナは、悲しみの中にいるジュールズをみつけ、つながりを感じる。
 森には一度いなくなったといわれたピューマが戻ってきていた。そのピューマはいつも、森を歩き回るエルクのそばにいた。セナは、ピューマがエルクのケネンであると感じていた。

 ジュールズは、出征前エルクから、もしふたりが戻らなかったら、森のどこかに隠されているといわれる石の洞窟を探して、この2つの石を納めてほしいと、メノウ石を渡されていた。ジュールズは頼られて嬉しかったが、一人だけ戻ってきたエルクにその石を返せないでいた。
 姉を失くしたジュールズには、エルクの苦しみが痛いようにわかった。そして「石の洞窟をみつけたい」と、切に願うようになる。姉の事故以来、パパから森に入るのを禁じられていた。だが、とうとうある日、パパとの約束を破って、森に踏み入り、親友の死を悼むエルクと、その近くにいたヒョウを見る。そして、あのキツネ、セナと出会う。

 ジュールは石の洞窟をみつけられるだろうか? 石の洞窟に隠された秘密は? 姉のシルヴィはなぜそんなに速く走りたがったのか? キツネのセナは、どんな使命を果たすか?

 なんとも不思議な、神秘体験をしたような読後感だった。
 物語は、ジュールズの視点から描いた人間世界のストーリーと、母キツネとセナの視点から見たキツネ世界のストーリーが別々に、並行して語られていく。だから、ジュールズたちは、セナがケネンであることを知らない。けれども、私たち読者は知っていて、人間と動物との心の交流というより、もっと深いところの魂のつながりを感じる。

 身近な人の死は受け入れられがたいもの。それが、シルヴィとジュールズのママのように突然だったり、アフガニスタンで戦死したジークのように不条理なものだったり、シルヴィのように行方不明のままだったりしたらなおさらだろう。残されたものを癒すのは、時間、死者とのひそやかな語らい、死者への理解……。
 主人公が姉の死を受け入れ、前進していく過程を、ケネンの存在なしに、現実世界だけで感動的に描くこともできたと思う。というのも、姉シルヴィの思いを、ジュールズが理解していくところが、私にはいちばん胸に響いたからだ。
 現実世界に、スピリチュアルな世界を持ちこむことで、より美しく静謐な雰囲気を醸し出し、読者の心に静かに染みわたる作品となっている。

 ところで、人間を守るケネンという存在が私には、神秘的だけれど、一方で、人間を中心にした都合のよい存在に思えてならない。その違和感は、自然観の違いであり、私が、美しく切ないラストに納得できず、物足りなさを感じた所以でもあるだろう。

*第63回青少年読書感想文全国コンクール 中学校の部 課題図書

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