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課題図書を読む『大村智ものがたり』

 昨年、2015年の日本人ノーベル賞受賞者はお二人だった。そのうちのおひとり、生理学・医学賞を受賞された大村智さんの伝記。10月5日に受賞が発表されて、この作品が出版されたのが12月15日で、作者あとがきの日付は11月9日になっている。受賞が決まってからの執筆なら、なんというスピード! 作者は、新聞社出身の科学ジャーナリスト。以前から大村先生を取材され、2012年には、すでに『大村智 - 2億人を病魔から守った化学者 』(中央公論新社)を出版されている。

大村智ものがたり~苦しい道こそ楽しい人生
 馬場錬成著
 毎日新聞出版

     

 大村先生の経歴は、すでにあちこちで報道されたが、この著書に書かれたものをまとめると次のようになる。
 山梨県の農家の長男として生まれ、10歳のときに終戦をむかえる。地元の高校を卒業して山梨大学に入学。東京で夜間高校の教師をしながら、勉強して2年後に東京理科大学大学院に入学。教師も続けながら大学院で学んで博士論文を書く。3年後に結婚して、山梨大学に戻って助手として働くが、2年後、29才でで再び上京して北里研究所の研究員となる。そこで書いた論文で、東京大学で薬学博士号、東京理科大学では理学博士号を取得し、36才でアメリカのウエスレーヤン大学に留学。2年で帰国し、留学時代に取り決めたメルク社との共同研究を始め、1975年北里大学薬学部教授になる。そして、ゴルフ場の土を培養した微生物が作った化学物質から、動物の寄生虫やダニを殺すエバーメクチンを発見。エバーメクチンを改良して、人間の寄生虫に効くイベルメクチンを開発。この感染症の治療法の業績でノーベル賞の受賞となる。

 高校教師というまわり道はあるものの、とんとん拍子の華々しい研究者人生だ。その陰には、人の何倍もの努力があっただろうし、苦しみもあっただろう。本書でも、「徹夜で実験するのは慣れている」(p96)、「朝6時に研究室に出勤する」(p106)、「精神科へ行くと、医師から研究に熱中し過ぎているので何か他の楽しみをもちなさいと言われました。」(P115)と、書かれている。
 だが、本全体から受ける大村先生の印象は、とても精力的で、努力を苦とせずに、前へ前へと進んでいくのを楽しんでいる。
 小学校から大学までは、勉強よりもスポーツに夢中だった。高校では卓球部とスキー部。卓球では部長を務め、スキーでは、県大会・県インターハイで優勝している。スキーは大学に進んでも続け、体力をつけるために、大学までの15キロを走って通った。
 好きなことには熱中して打ち込み、結果を残せる。優れた資質を持っている。

 また、大村先生はすばらしい両親のもとで育ち、人との出会いにも恵まれた。戦時、敵国の英語を子どもたちに内緒で習わせたお父さん。「教師たる資格は、自分自身が進歩していること」(p40)と日記に書いていた元教員のお母さん。スキー指導員の横山先生は「人のまねではその人のレベルどまり」と教え、大学院の都築先生は、論文を英語で書くようにと指導した。こうした、先見の目をもち、自分を磨く人たちの言葉や行動を、大村先生は吸収してエネルギッシュに行動に移した。目上の人だけでない、夜間高校で教えた生徒たちからも、「勉強の重要性とそれに向かう意欲」(P99)を学んだ。そうした大村先生のひたむきな姿を見た人が、また大村先生に目をかけて引き上げる。
 引き上げられるのを待つだけではない。大村先生は、自分からも積極的にはたらきかけて、チャンスを引き寄せた。アメリカへの留学は、まずアメリカを回って教授たちと交流し、帰国してから自分を売り込む手紙を5つの大学に出して獲得した。
 人からパワーをもらって、そのパワーを発散して人に与え、また人からもらって……と、パワーは、人とのつながりの中で好循環し、人間として、研究者として、大村先生はどんどん伸びた。
 熱中していることには、苦労を惜しまない。どんなに苦しくとも楽しめる。それが大村先生なのだ。
 考えても見てほしい。ノーベル賞につながった化学物質をみつけだすまでに、大村先生率いる研究者たちが、どれだけのたくさんの場所から土を採取し、どれだけの回数、培養したことか――。
 大村先生のような精力的な生き方は、なかなかできないし、能力がないからとあきらめてもしまうだろう。でも、どんなことも楽しんで精いっぱいやろうと心がけることはできる。すると、きっと、世界が違ってくるだろう。
「至誠天に通ず」(p183)。大村先生から頂いた言葉を、心にとめておきたい。

*第62回青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部 課題図書

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