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2016年6月 2日 (木)

課題図書を読む『白いイルカの浜辺』

 水族館のイルカショー、見たことあるでしょか? プールでイルカがジャンプする、子どもたちが大好きなあのショーです。わたしは、子どものころから何度も楽しみました。そのイルカが日本では追い込み漁で捕獲されることに、世界動物園水族館協会(WAZA)から倫理違反と改善の勧告を受け、追い込み漁中止が発表されたのは、ちょうど1年前です。それまで、イルカってすごい! かしこい! かわいい! と、ただ無邪気に感心していただけだったので、海外との意識のギャップを感じて、驚きました。
 読みながら、そのニュースが思い出されました。この作品は、イルカの追い込み漁とは直接関係ありませんが、環境保護運動における「イルカ」の役割を感じさせることでは似ています。

白いイルカの浜辺 (児童図書館・文学の部屋)

 ジル・ルイス作
 さくまゆみこ訳
 評論社

     

 舞台は、イギリス、コーンウォールの漁港の町。トロール船を持ち、人を雇って底引き網漁をするタギー・エヴァンズが、町で権力を持っていた。
 中学生のカラは父親とともに、叔母(父親の妹)の家に住まわせてもらっている。父親は、パブのキッチンで働いている。しかし、そのパブも、もうすぐ閉鎖されることになった。叔母の家も貧しく、もうすぐ赤ちゃんが生まれる。いつまでも厄介になれるわけではない。お金に困った父親は、とうとうヨットのモアナ号を売りにだした。
 カラは受け入れられなかった。モアナ号は、いなくなった母親との思い出のヨットだ。カラの母親は海洋生物学者で、港近くの海域を10年間の底引き網禁止区域にしてもらって、サンゴ礁の調査研究をしていた。だが、1年前にクジラとイルカを守る慈善団体の活動でソロモン諸島へでかけたきり、行方不明になってしまった。母親のサンゴ礁調査は途中のまま、底引き網禁止期間も、もうすぐ終わる。
 そんなある日、カラは白いイルカの子どもが岸に乗り上げているのを見つけた。イルカは、漁網が絡まって、けがをしていた。近くでは母親イルカがおろおろと泳いでいる。カラは、なんとしてもイルカの命を救いたかった。そこへ偶然、脳性麻痺の転校生フィリクが、父親とヨットでやってきた。イルカを救うため、港の自然を守るため、カラとフィルクスは奮闘する。

 大きなテーマは、自然環境保護。生きる糧として魚介をとっていた人々が、いつのまにか富をえるために、乱獲し海を荒廃させ、なおも多くの富を求めて乱獲を続ける。その愚行を人々にどう気づかせ、どう止めるか。世界中で起きている問題を、イギリスの港町の底引き網漁に焦点をあてて、わかりやすく描いている。

 トロール船を所有するタギー・エヴァンズとその息子ジェイクが、欲にまみれた悪役を一手に引き受ける。彼らに真っ向から反駁する正義のヒロインが、カラと海洋生物学者の母親だ。悪役と正義の味方、この両者をとりまく町の人たちは、その日をやりくりするのが精いっぱいで、自然環境に目を向ける余裕はない。生計を得るためにはエヴァンズの言うなりになるしかない。町の漁民の貧しさは、カラの叔母一家の暮らしから見えてくる。「お金がいるんだよ」というべヴおばさんの言葉がその切迫ぶりを表す。
 そこへ、エヴァンズとはまったく利害関係がなく、裕福なフィルクスの家族が引っ越してくる。そして、漁網に絡まったイルカが現れて、人々の意識を変えていく。

 イルカ――それも、とても珍しいアルビノの(メラニン不足で皮膚が白い)イルカだから、人々は注目するのだ。魚を無駄に乱獲しても気にならないが、人間と同じ心を持つように思えるイルカ1頭の生死には、人々は心を動かされる。ある意味、自然環境保護の広告塔としてイルカが使われる。カラたちの環境保護の闘いにおいても、この本においても……。
 その点を作者は見逃さない。作中でフィリクスもいう。「だって、『ホヤを救おう』っていう記事と『イルカを救おう』っていう記事があったら、みんなはどっちを読みたいと思う?」
 そうして、読者の関心をつかんだのちに、本当に大切なことを伝える。イルカがのびのびと生きていける海の環境をつくることが、自然環境を守ること、さらに、長い目で見れば、人類を守ることだと。

 さて、このメインテーマの後ろには、もうひとつのテーマが流れている。親子の別離と子どもの独り立ちだ。
 カラは、母親と、行方不明というはっきりしない失い方をしたために、受け入れられないでいる。だから、白いイルカの子と母イルカの関係に、自分と母親を重ねあわせて、なんとか2頭を引き離さないようにと必死で頑張る。2頭のイルカの行く末に、自分の母親が戻ってくることを託しているようで、読んでいて胸が痛む。だがカラは、イルカ救済の活動を通して仲間をつくり、成長していく。こちらでも、イルカ親子のストーリーが、カラの物語に巧く絡めてある。

 このように、この作品では、登場人物やエピソードがうまく設定されているが、私が疑問に思うのは、主人公カラと父親の難読症(ディスレクシア)と、カラを助けるフィリクスの脳性麻痺だ。この設定がなくても、物語は十分になりたつのではないか?。
 もちろん、カラやフィリクスの障害をジェイクが執拗にからかうことで、ジェイクの憎らしさは倍増する。だがそれだけが目的だろうか? カラが聖書をやぶってしまう場面、ジェイクがヨットの操縦では身体の障害を感じずに自由でいられると感じる場面などに、作者の深い意味がこめられているのかもしれない。

 前半、カラの置かれた状況が謎めかされ、小出しに明らかになってくる。それを楽しんで読めるかどうかが、面白さを分ける。じっくり読みたい人向け。

*第62回青少年読書感想文全国コンクール 中学生の部 課題図書

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