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課題図書を読む『ABC! 曙第二中学校放送部』

 タイトルを見て、昨年夏に放映されていたドラマ『表参道高校合唱部!』が頭に浮かんだ。芳根京子ちゃん(秋からの朝ドラのヒロイン役とのこと、楽しみにしている)のまっすぐな演技がすがすがしかった。ああ、若いっていいなあ、仲間っていいなあ!と、私には遠い日々の、きゅんきゅんした気持ちを思い出したりもした。
 さて、この作品は……。
 
ABC! 曙第二中学校放送部
 市川朔久子作
 講談社

     

 4月、みさとは中学3年生、放送部の新副部長になった。というものの、いま部員は部長の古場とみさとの2人きりで、放送部は廃部寸前だ。古場は機材担当で、みさとは苦手なアナウンスを一手に引き受けなければならなかった。もともと、みさとはバスケット部で、2年生のとき事情があって放送部に移ったのだ。
 顧問の須貝先生の提案で、部員を増やすために、週1回のお昼の放送を開始する。そのかいあってか、1年生の新入会員珠子が入ってきた。
 同じころ、転校生の葉月が放送室へ訪れるようになった。防音室で叫んで怒りをぶちまけるためだ。葉月はみさとと同じクラスで、息をのむほど美しいのに、凛として近寄りがたい雰囲気があった。前の学校では放送部にいて、放送コンクールの朗読部門で入賞している。だが、なぜか入部を拒んだ。それでも、アナウンスはしない、入部をだれにも秘密にするという形で入ってくれる。
 肩を痛めて野球部を休部していた長身の新納も入部してきた。新納もみさとと同じクラスで、みさとにとって、とても気になる存在だ。嬉しいけれど、新納の入部は、葉月が目当てだろうとみさとは考えている。
 葉月のアドバイスでみさとのアナウンスは上達した。お昼の放送は生徒たちの評判もよい。須貝先生は夏の放送コンクール地区大会に参加すると言い出した。みさとはアナウンス部門にエントリーし、部全体でもラジオ番組作品を出すことになった。
 部員たちは前向きにがんばる。葉月も様々なアドバイスをして助けてくれる。しかし、多難だった。学校がラジオ番組制作を検閲して邪魔してくるし、みさとは練習しても思うようにアナウンスできずに焦るばかりだ。
 みさとは、葉月が自分よりずっとアナウンスがうまいのに、頑なにラジオ番組への出演を拒むのを非協力的だと腹立たしく思った。とうとう、ふたりはぶつかる。
 みさとは葉月は仲直りできるのか。放送コンクールの行方は。葉月がアナウンスや声の出演を拒むのはなぜか。みさとの新納への思いは……。

「チクチク言葉」と「ふわふわ言葉」という言葉を、聞いたことがあるだろうか? 人を傷つける「チクチク言葉」と人を幸せのする「ふわふわ言葉」だ。私は近所の小学生から教えてもらった。たとえば「ブス」とか「死ね」はチクチク言葉になる。
 また、「大きな声で挨拶しましょう」と大人は子どもに教えていう。出会った人と挨拶しあうは気持ちがいい。
 大人たちが教えていることは正しいだろう。でも、本当は言葉はそんなに単純ではない。言葉や挨拶の裏にどんな思いが込められているのか、受け手がどんな状態なのか、いろいろな条件が重なって、意味が違ってくる。何気ない普通の言葉が、気づかないまま人を傷つけること、天にも昇る心持にせさることもある。
 言葉はとてつもなく大きな力を持っているのだ。
 言葉とその力について、学校生活、とりわけ部活動を通して、じっくりと考えさせてくれるのがこの作品だ。学校生活のなかでの小さないやがらせやいじわる、部活仲間・友だち関係のこじれ、先生への不満・反発など、中学生なら心当たりがありそうなことが、ていねいに描かれている。
 登場人物のほとんどは、どこの中学校にもいそうな生徒だが、そのなかでひとりだけ際立つ子がいる。美少女の葉月だ。その美しい姿を見るために他校から男子生徒が校内に忍び込んだため、学校は彼女を問題視し、葉月にマスクをするように注意した。学校のとった態度の是非はさておき、いったいそれはどんな美しさだろう。
 だが、この美少女は、無愛想で、他の女子に鋭い声で「ブス」と言い放ち、防音室で「むかつく、むかつく……」と大声で連呼する。見た目と発する言葉に、ものすごいギャップがある。ギャップはそれだけではない。「チクチク言葉」で人を刺す彼女が、実はいちばん言葉に敏感で、言葉の持つ力の大きさと怖さを知っている。
 逆に「チクチク言葉」を使わずに人を傷つけるのがうまいのが、転校生の葉月から最初に「ブス」呼ばわりされる亜美だろう。主人公のみさとは、亜美の言葉にずいぶん嫌な思いをさせられるが、やり返すことはない。裏のない言葉を使うみさとに葉月は心を許していく。
 教師側では、顧問の須貝先生と生徒指導の古権沢先生が、好対照となっている。須貝先生は新任で若いこともあって、生徒たちに考えが近い。
 一方、古権沢先生学校権力の権化みたいな存在で、みさとたち放送部を敵視し、もっともな理屈で、さまざまな難癖をつけてくる。さすがにここまで融通が利かず愚かな先生を私は見たことがない。だが、現在進行形の中学生は、学校で理不尽な思いをすることがあって、古権沢先生のような敵役にリアリティを感じるかもしれない。
 放送部がある中学校は、私の暮らす地方ではほとんどないように思う。けれども、部活動はちがっても、等身大の中学生がいる物語だ。多くの中学生の共感を得られるだろう。

*第62回青少年読書感想文全国コンクール 中学校の部 課題図書

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