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2016年6月 5日 (日)

課題図書を読む『木のすきなケイトさん』

どうぶつがすき 』、『あたまにつまった石ころが 』などと同じ、実話のひとすじさんのお話。
 フィクション作品では『ダーウィンと出会った夏 』が、時代的にもジェンダー的にも似ていている。

木のすきなケイトさん―砂漠を緑の町にかえたある女のひとのおはなし

  H.ジョゼフ・ホプキンズ文
 ジル・マケルマリー絵
 池本佐恵子訳
 BL出版

     

 樹木を愛して園芸家になり、砂漠だったサンディエゴを樹木豊かな町に変えたケイトの伝記。
 ケイト・セジョンズは1857年カルフォルニア州サンフランシスコ生まれ。森で遊ぶのが大好きだった女の子は、やがて、カルフォルニア大学で科学を学び、女性の科学者として初めて大学を卒業する。その後、教師として南カルフォルニアのサンディエゴへ。ところが、そこは砂漠地帯で、木がなかった。
 サンディエゴにも木がほしい。ケイトは2年で教師を辞め、園芸家となって、世界中から種を集めて、砂漠で苗を育て始める。やがて、町中、公園で、学校で、家で、ケイトが育てた木が植えられていく。

 絵は、樹木を愛したケイトの伝記にふさわしく、木の葉の緑、木や地面の茶色のアースカラーを使って、美しい構図で描かれている。森林浴するような爽やかな空気が、絵本から流れ出てきそうだ。
 少女時代のケイトが森の中で寝そべるのを、真上から見下ろした見開きページ(表紙絵にも使われている)はとりわけ素晴らしい。

  木は、ケイトのともだちでした。
  木が大空にむかってぐんぐんのびたり。
  お日さまの光をあびようとして、いっぱいに枝をひろげるすがたが
  だいすきなのです。(絵本より引用)

 絵がやわらかな文章と調和している。こんなふうに寝ころんだら、どんなに気持ちいいだろう。

 他のページでも、淡々と事実を語る文章を、絵が豊かに演出する。

 学校では、教室にたくさんの男子がいて、ひとりきりの女子ケイトは、一番前の席にいる。他の男子がよそ見したり居眠りしたりしているなか、ケイトは熱心に授業に参加している。大学卒業のときは男子学生たちがみなケイトに視線を向けているのに、ケイトは凛と真正面を見ている。そうした姿が颯爽としてすがすがしい。

 教師になってサンディエゴに着いた場面では、砂漠の町を眺めるケイトの後ろ姿かある。背筋をピンとはりつめた背中が、樹木のない場所に来た寂しさや落胆を語る。別場面の教室では、窓から、緑がなくてゴミ山のある公園をぼんやりと眺める目が、なんとも悲しそう。でも、園芸家になったとたん、その目はいきいきと輝きはじめる。

 ケイトが集めた、砂漠でも育つ樹木は、その名前と木の特徴をつかんだイラストがカタログ様に並べられている。ユーカリ、ヤシ……そのうちの何種類かが、次のページにいくと、町の中にちゃんと育っていている。なんと、わくわくしてくるではないか。
 さらに、その先のページでは、ケイトの努力により緑が生い茂った庭園が現れる。横長の見開きページを効果的に使って描かれたその庭園には、老若男女、さまざまな人が大勢並んで憩い、まるで楽しげな会話が聞こえてきそうだ。

 晩年、樹木の手入れをしているケイトは、やさしい満ち足りたの表情を浮かべている。

 ケイトが生きた時代は、とくに女性は生き方を制限されただろう。そのなかで、ケイトは自分の好きな道にすすみ、情熱をもって働き、社会に貢献した。もちろん絵本に書かれていない苦労があったに違いない。けれど、それは本当に恵まれた幸せな人生だっただろう。

 さて、私はケイトのことはまったく知らなかったし、サンディエゴが砂漠地帯で150年ほど前には樹木がなかったことも初めて知った。日本でこの翻訳絵本を読む子どもたちの大多数も、おそらく私と同じだと思う。
 この絵本は、そんな子どもたちに、知らない世界への窓を開けてくれる。子どもたちは、その窓から、地理に、歴史に、自然科学にと、様々な方面に興味を広げていくだろう。
 そのとき、子どもたちはきっと、ケイトと同じように輝いている。

*第62回青少年読書感想文全国コンクール 小学校中学年の部 課題図書

 いっしょに読んでみて

    

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