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課題図書を読む『希望の海へ』

 課題図書では、常連のマイケル・モーパーゴの作品。

希望の海へ
 マイケル・モーパーゴ作
 佐藤見果夢訳
 評論社

     

 第2次世界大戦後、白豪主義のオーストラリアでは減少した人口回復のため、「白人」の大量移民計画が立てられた。一方、イギリスでは、戦災孤児があふれて対処に困窮していた。そこで児童移民政策が始まった。
 孤児のアーサー少年は、この政策でにより、姉のキティと引き離されて、大勢の子どもとオーストラリアに船でつれてこられ、牧場で奴隷のように重労働を強いられる。このときのアーサーの年齢はおそらく6歳。というのも正確な誕生日がわからないからだ。
 姉のキティと別れる時、キティは、ひもに通した鍵を「肌身はなさず持っているように」とアーサーの首にかけた。船のなかで仲良くなった4歳年上のマーティは、つねにアーサーのそばにいて弟のように守ってくれ、ふたりはオーストラリアでの日々をともに過ごす。

 作品は2部構成になっている。第1部ではアーサーの波瀾に満ちた生涯をアーサー自身が振り返って語り、第2部ではアーサーの娘アリーが、キティ4号と名付けたヨットでの、2005年イギリスへの単独航海を、航海日誌や航海中のEメールをはさみ語る。
 アリーが渡英したのは、父アーサーの生き別れた姉キティを探すためだった。手がかりはアーサーが大切に持っていた鍵だけ。はたしてキティーを探し出すことができるだろうか? そもそも、存在するのだろうか?

 かなりの読み応えだった。第1部では、アーサーの軌跡にともない、児童移民、児童の強制労働、オーストラリアの現地人・自然・動物と白人との関係、造船技術、ベトナム戦争などの歴史がぎっしり詰め込まれている。第2部では、オーストラリアから南米南端ホーン岬をまわってイギリスまでいくヨットでの航海の詳細な記述が主となる。時代はぐんと現代的になり、Eメール、国際宇宙ステーションとの電話通信まで登場する。こうした歴史的、社会的な背景は、それぞれがドラマをもち、目に見えるように描写されている。

 けれども私が興味を持ったのは、登場人物たちの境遇とそこから生まれる精神的な影響、人間の強さと弱さだ。
 しっかりしていると思われた人が、ある限界を超えるともろく壊れる。アーサーはそれを「心が折れる」と表現する。過酷な境遇の中でたくさんの人の心が折れた。マーティも、アーサーも……。
 牧場主ブダ・ベーコン(アーサーが秘かに付けた呼び名)は、ひどい暴君で、アーサーとマーティたち移民児童を虐待した。広いオーストラリアの大地のなかで、孤立している牧場で、彼を取り巻くのは、妻と移民の子どもたちといった、力のないものたちだけ。そんなとき心の弱い人は、権力をほしいままにしてしまう。一方で、彼はクリスチャンで、自分が罪深い子どもたちを救っていると信じていたとも考えられる。もし、あの時代あの場所にいなければ、もっと豊かだったら、いい主人になれたのかもしれない。
 そんななか、どんな時も、ブレない人や、弱そうに見えて突然勇敢な決断を過ごす人もいる。迷子の動物たちを拾って野生に戻すメグスおばさんや、ブタ・ベーコンの妻アイダ……。その強さを産むのは、芯の強さなの。その人の限界に達していないだけなのか、ありきたりの言葉を使ってしまえば愛なのか……。
 強さと弱さ、やさしさと残虐さ、希望と失意。真逆のもののあいだは、糸のように狭くて、人はその糸の上をぐらぐら揺れながら歩いているのかもしれない。これまた、ありきたりの言葉でいえば、広い海原を進む船のように。もちろん、船のつくりは大切。それはキティ4号を見ればわかる。けれども、どんなすばらしい船も、天候と運に左右されないではいられないのだ。

*第61回青少年読書感想文全国コンクール 高校生の部 課題図書

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