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2015年5月13日 (水)

課題図書を読む『ぼくとテスの秘密の七日間』

 最初のうちは話が見えなくて読みずらかったけれと、後半になって一気に読めた。また初めから読み直すと、1回目にわからなかったことが見えてきて楽しめる作品。

ぼくとテスの秘密の七日間 (文学の森)
 アンナ・ウォルツ作
 野坂悦子訳
 きたむらさとし絵
 フレーベル館

   

 10歳のサミュエルは家族とテッセル島に1週間のバカンスにきている。ところが、初日から兄さんのヨーレが砂丘の穴に落ちて足を怪我した。島の病院で診察を受けている間、サミュエルは病院の裏で、看護師さんの娘テスと出会い親しくなる。
 テスは看護師のママと二人暮らし。パパはいない。パパは、テスが生まれる前にママと別れて、テスの存在すら知らない。テスもパパの名前さえ知らされていない。娘が18歳になるまで知らせないと、ママが決めたのだ。
 テスのママは砂丘にバンガローを持っていて、時々人に貸している。テスは、ママに内緒で、ある観光客をバンガローにを泊めようとしていた。その客はどうやら、テスのパパらしい。サミュエルは、なりゆきでテスを手伝うことになる。
 一方、サミュエルとテスは島の老人のペットのカナリアの葬式に立ち会う。島へ来る3週間前、クラスメートの父親の急死を経験したばかりのサミュエルは、それ以来死をはっきり意識する。そして、自分や身近な人の死、死別したあとの孤独感を思い不安にかられる。

 ストーリーを引っ張っていくのは、テスとパパのすったもんだのいきさつ。テスは、娘の存在すら知らないパパに、まず会ってその人となりを見極めてから、名乗り出るかどうかを決めようと考えていた。だが、母子だけで愉快に暮らしてきたママのこと、恋人連れでへらへらして父親らしくないけれど優しいパパのこと、偶然に起こるさまざまな出来事で、心は大きなふり幅で揺れる。テスと知り合って間もないサミュエルは、テスの気持ちが捉えきれないながらも、テスとパパそれにママの関係を見守り、彼なりに考えて、テスを助けていく。
 この骨組みに、サミュエルの死に対する不安が絡んでいく。共感力が強く、ものごとを深く考える性質のサミュエルは、死を直接体験した人たちの思いを、共感して想像し、ともすれば膨らませすぎる。死の不安に対しても対処法を考えつくが、どこかずれている。なにしろ、「最後の恐竜が死ぬとき、じぶんが死ねば絶滅だって知っていたか? 死ぬのがつらいと思っていたか?」と、子どもらしい理屈っぽい疑問を持つ彼なのだ。
 だが、このサミュエルの共感力と想像力が、テスを助ける。サミュエルにとって、テスは会ったばかりで知らないことのほうが多いけれど、テスの立場を想像して考えようとがんばる。テス以外の人に対しても、サミュエルはできる限りその人になって考える。その考えは拙いときもある。けれど、その一生懸命さ、人を思いやる姿勢は素晴らしく、私も見習いたい。

 ところで、離別していた父子の出会い、死への不安。このふたつは、どちらかだけでも、物語は成り立ち、その方が物語がすっきりしたようにも思う。では、なぜ、作者はひとつの物語にいれこんだのだろう。
 人は例外なく、生まれて死に、出会って別れる。そのなかに喜びと悲しみがある。それが人生。その人生を、死や別れを恐れずに謳歌して! そんなことを伝えようとしているのではないだろうか? 作中にさりげなくさしこまれる小さなエピソードのいくつかも、そのメッセージにつながっている。

*第61回青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部 課題図書

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