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課題図書を読む『夏の朝』

 いい本に出会った! 課題図書になっていなければ知ることがなかっただろう珠玉のファンタジー。この出会いに感謝です。

夏の朝 (福音館創作童話シリーズ)
 本田昌子作
 木村彩子絵
 福音館書店

     

 夏休みに入ってすぐの日曜日、中2の莉子は祖父の一周忌の法要に、一人暮らしだった祖父の家へ、父とでかけた。そこで莉子は、庭の蓮池の花をじっと眺める親戚の小夜子おばさんとはじめて会う。小夜子おばさんは、子どもの頃、祖父の家の離れにひとりの老婦人が住んでいたといい、老婦人からきいた話をしてくれる。この家の蓮が特別な種類であること。そして、蓮のつぼみのなかにはだれかの想いが入っていて、ぽんと音を立てて花が開いたとき、その音を聞いた者は、入っていた想いを受取ることができること。
 莉子はそのことを確かめるために、法要のあと祖父の家に残って、母のいちばん下の妹、佳乃おばさんと泊まることにした。佳乃おばさんは、処分することになった古い家を整理するために、しばらく泊まる予定でいたのだ。
 翌朝、蓮の花が開く瞬間を逃すまいと、夜明け前に起きた莉子は、蓮の花が開く音を聞く代わりに、現実のような夢のような不思議な体験をする。これは、どういうことなのか? 莉子は、佳乃おばさんを手伝いながら金曜日まで泊まることにし、毎朝不思議な体験をする。
 毎朝、蓮の花が開くたびに開放する、この家で暮らした人たちの想いを、莉子は受け止めたのだった。祖父、母、叔母、離れの老婦人。そして、莉子が閉じこめてきた想いは……。

 静謐な輝きをたたえた、魅力あふれる作品。
 まず、時をさかのぼってめぐるファンタジーが新鮮だ。家族の古い思い出を、親しい家族に聞かせてもらっているような、古い写真を見せてもらったような、うれしさ、懐かしさがある。小学生の時に亡くして母を慕う莉子にとって、少女時代の母と出会えたことは、何よりもうれしいことだっただろう。
 ファンタジーの展開としては、はじめの朝に、蓮の実の謎が投げかけられ、最後の朝に、この家の蓮池の歴史とともに、すべてつまびらかになる。その歴史の鍵を莉子自身が握っていた不思議さに、私は、ほおっと感嘆し、本をさかのぼって読み直し、巧みなファンタジーをもう一度味わった。

 このファンタジーに、たおやかな雰囲気を持たせているのが、文章の美しさだ。深紅、あかね色、紅色といった色の名をはじめ、「障子越しに射しこんでくる朝の光が、部屋の中を白く染めている」といた言葉を選んで、日本ならでは家屋や自然を、そのままに映し出している。作品の中心となる蓮の花は開いて、色や形、香りまで、なまめかしいほどと描かれたと思えば、朝露が葉をつたう清楚な姿が立ちあらわれる。
 登場人物はゆったりした地方語で話す、ごく普通の人たちだ。彼らが、何かを感じ、思いながら家族と暮らしている姿に、とても親しみを感じた。祖父の家は、親戚や手伝いの人が大勢、出入りした農家だろう。家にくる人たちを大らかにうけいれもてなす様子があたたかい。
 そういえば……私の祖父母宅も、かつて台所は土間で、かまどもあった。なにかのときには大勢の人が寄ってきた。たくさんの人が泊まれるように、布団もたくさんあった。この物語が私の肌になじんだのは、私の原風景に近いものがあったからかもしれない。
 
 さて、莉子の祖父の家は壊される運命だが、家に暮らしていた家族の記憶、家にしみついたさまざまな想いは、家族の心にある。古い家の記憶、祖父の記憶や想いも、蓮の花を通して、莉子の心に刻まれた。
 その記憶や想いも、いつかは消えていく。そう考えると切ない。でも、いつかはなくなるから、大切なものなのだ。

*第61回青少年読書感想文全国コンクール 中学校の部 課題図書

 

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