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課題図書を読む『ぼくの、ひかり色の絵の具』

 作者は美術大学出身で、あとがきによれば植物マニアとのこと。そんな彼女だからこそ書けただろう作品。

ぼくの、ひかり色の絵の具 (ノベルズ・エクスプレス)
 西村スグリ作
 大野八生絵
 ポプラ社

     

 小学6年生の男子ユクは、思ったことを言葉にするのが苦手だ。どうして言い出たらいいかわからず、つい「だんまり」になってしまう。簡単な挨拶さえ、ためらってできないときもある。
 祖父が亡くなり、祖父母のしていた理髪店を両親が継ぐため、ユクは2か月前に引っ越してきた。新しい学校に親しい友だちはまだいない。
 ある日、隣のクラスと合同で図工の授業をすることになった。課題は、「自分のみつけたすてきなもの」の写生だ。ユクは、天狗の城があるといいつたえられる山「てんぐんじょう」を描くことにした。いい場所をさがしているうち、隣のクラスの女子ハネズに声をかけられ、ふたりは並んで描いた。
 ユクは図工は好きだけれど、図工の成績はよくない。きれいな色に見入ってしまい、描く時間がたりなくなってしまうからだ。このときも、ユクはしばらく「てんぐんじょう」を見いった。新緑の木々はそれぞれ違う微妙な色合いでとても美しい。
 ユクは、みんなが持っているようなセットのものではなくて、お父さんが1色ずつ選ん15色の絵の具を持っていた。鉛筆で下書きをせずに、黄色の絵の具で下書きして、上に他の色をかさねていった。ハネズが感心して眺めた。隣のクラスの先生も来て、いい色だとほめてくれた。
 ところが、担任の石丸先生は、ユクの絵が紅葉みたいだから、緑色を塗りなさいという。そして、ユクの絵の具に緑色がないとわかると、ハネズの絵の具を借りて塗るようにいいつける。ユクの絵の具には黄みの若葉色しかないが、それに藍色、黄色をまぜてぴったりの緑色をつくれる。でも、それを先生に説明できないので、いいなりになるしかなかった。そのあと、いくら色をのせても、イメージ通りの絵にはならなかった。
 放課後、ユクは提出した自分の絵をぬきだし、びりびりに破いてゴミ箱へ捨ててしまう。やぶれた絵をゴミ箱でみつけた石丸先生は、ユクがいじめられていると誤解し、両親に連絡した。ユクは、母親に「いじめられているのでは?」と聞かれたがうまく説明できず、「絵は気に入らなかたからら自分でやぶった」と答える。しかし、母親に信じてもらえず、家を飛び出す。

 いくら心で思っても、表さなければ人に伝わらない。うまく伝えられなくて誤解されることもある。では、どんな風にして伝えられるだろうか? 人見知りの少年ユクが、この課題と格闘する姿を、あわい恋や学校の先生との対決を通して描いている。
 ユクは自己主張が強くない。誰かに勝とうとか、人より目立とうとは思わない。水泳教室では、タイムをのばすことに興味はなくて、ぷかぷか水に浮いているのが気持ちいいと思う。おっとりしている。でも、思ったことをうまく言葉にできないことは、自分でも嫌だと感じている。
 そんなユクの前に、気になる女の子ハネズがさわやかに現れる。その一方で、自分の描いている絵が、頭の固い石丸先生のせいでめちゃくちゃにされるという事件が起きる。
 好きな女の子にはよく思われたいし誤解されたくない。絵を踏みにじられたのは許せない。このふたつが原動力になって、ユクは初めて、気持ちを伝える課題に、まっすぐ向き合う。そして、ハネズ、いたずらだけれどユクの絵の巧さを素直に口にした同級生のケイタ、忙しさのなかでユクを気遣う両親とおばあちゃん……周囲の人のたちに見守られて、勇気をふるい、伝える努力をする。
 そのなかでユクは、言葉のほかにも、伝える方法があることを知る。表情もその一つ。そしてユクだからできるもうひとつの方法――。

 学校教育では、前進、規律に価値をおきがち。頭の固い石丸先生はそうした学校の権化のような存在にみえる。しかし、石丸先生もユクの成長を願っている(そういう意味では石丸先生もまた気持ちを伝えるのがへたくそといえる)。提出した絵が破られているのを見たら、イジメを連想するのは現代では当たり前。ユクが学習用と違う特別な絵の具を持っていて、それじゃないと嫌だと思っていることに、私は正直、少しいらついた。色彩感覚が人並み外れて秀でたユクだから、使いこなせる絵の具ではあるだろうが、そんな特別な絵の具を学校へ持って行かせる親もどうかと思った。
 記憶があいまいだが、こんな話を読んだことがある。16色か20色ぐらいたくさんの色の入っているクレヨンを買ってもらった女の子の絵が賞を取るかほめられる。それをひがんだ別の女の子が意地悪をするが、よく見ると絵は基本の色しか使っていなかった――。
 あまり絵心のないわたしだから、ユクやユクの父親に違和感を感じたのだろうが……。。

 さて、この作品では、主人公ふたりの名前(ユクは初夏に白い花をつける別名ミヤマフジキといれる木、ハネズは庭梅)に始まって、植物、自然環境保全についての知識が、豊富にもりこまれている。
 とくに私が興味を持ったのは、オオキンケイギク。この本を読む数日前に、市のちらしで駆除するようにと書かれているのを読んだばかり。さらに、市内を流れる川の河原一面を黄色に染めた生い茂ったオオキンケイギクの駆除作業が業者によって行われるのも目撃した。特定外来生物として指定されたのは2006年らしいから、今年初めて知ったのは、恥ずかしい限り。でも、2014年に出版のこの作品で、特定外来生物として取りあげられているところを見ると、規制が厳しくなり一般に知れ渡ったてきたのは近年になってだろうか。
 読み手によっては、自然科学への入り口となる本となるかもしれない。

*第61回青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部 課題図書

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コメント

とても良い内容でした*\(^o^)/*

読んでくださってありがとうございます。

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