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2015年5月23日 (土)

課題図書を読む『パオズになったおひなさま』

 世界大戦前、多くの日本人が満州にわたって暮らし、終戦時に辛い体験をして引き上げてきた。そうした日本人家族と現地で暮らす中国人母娘。そこには反目しあう母国の感情とは関係ない、人と人の当たり前の心の交流があった――。

パオズになったおひなさま
 佐和みずえ作
 宮尾和孝絵
 くもん出版

     

 
 愛花の家では、毎年ひなまつりに、おばあちゃんが肉まんを作る。日本でよく売られているものよりひとまわり小さくて、先がとんがっていて、もっちりしている。中国ではパオズと呼ばれている。おばあちゃんがひなまつりにパオズをつくるのには、ある理由があった。

 いまから約70年前、おばあちゃんが生まれる前に、おばあちゃんの一家は中国の大連にわたった。おばあちゃんは大連で生まれ、よしえと名付けられ、よっちゃんと呼ばれた。 よっちゃんの家は、大連の日本人町で小麦粉や豆、胡麻などを升売りするお店を営んで繁盛していた。中国で商売しているのだから、中国の役にも立ちたいというお父さんの考えで、中国人の店員も雇って分け隔てなく接していた。
 よっちゃんが6歳のとき、ひとりで中国人の街へ迷い込んでしまう。そこでリンちゃんという同じ年の女の子と出会い、帰り道がわからなくなったよっちゃんをリンちゃんのお母さんが家まで送ってくれた。リンちゃんのおかあさんはパオズ屋さんだった。
 その日からリンちゃんはよっちゃんの一番の友だちになった。リンちゃんの上に行くと、お母さんがよくパオズをごちそうしてくれた。代わりにリンちゃんのお母さんが店に来ると、よっちゃんのお母さんは小麦粉をおまけしてあげた。中国の旧正月には、よっちゃんがリンちゃんの家でごちそうしてもらい、ひな祭りにはよっちゃんがリンちゃんを招いてお雛様を披露しお祝いした。
 しかし、次第に戦況が厳しくなっていく。1944年、よっちゃんが8歳の年の春には、中国人を雇っているお父さんにスパイ容疑がかけられ、夏に逮捕されてしまう。数日後に釈放されたが、戻ってきたお父さんは身体にも心にも傷を負い、元のお父さんではなかった。町では日本人と中国人が反目しあいようになり、リンちゃんとも会えなくなってしまう。
 家族は、ついに帰国を決心する。身の回りのものだけを持っての引き上げだった。よっちゃんの大切なお雛様もおいていかなければならない。

 大連での日本人と中国人の関わりあいの様子、戦況とともなう変化が、よっちゃん一家の暮らしぶりを通してよくわかる。中国人店員を信用しない日本人客がいた。悲しいかな、中国人を見くだしていた人たちが大勢いたということだ。しかし、よっちゃん一家のように中国人と仲良くしようとつとめた偏見のない人たちもいた。よっちゃんたちのように日本人の子と中国人の子がいっしょに遊んだりもしたのだろう。
 日本の敗戦色が強くなると、今までしいたげられてきた中国人が日本人の店を襲いはじめる。けれど、声はあげなくても、リンちゃん母娘のように、日本人を悪く思わない中国人の人たちもいたにちがいない。
 お父さんがスパイ容疑をかけられたのは、非常におそろしい。戦争にのみこまれた人々の疑心暗鬼、不気味な狂気を感じる。

 作者は戦後生まれ。戦時、中国で暮らしていたという義母や親戚の話を聞いて、この物語を書きあげたという。直接戦争体験を持たない作者は、日本人と中国人のどちらかを一方的に被害者にも加害者にもしない。感情的にならず、淡々と描く。
 主人公のよっちゃんは戦火のもとにいない。よっちゃんは暴力にあわず、悲惨な場面は書かれていない。しかし、否、だからこそよけいに、戦争のために親友と別れなければならなかった不条理さや、そうした戦争の無意味さが、しっかり伝わってくる。そして、いがみあうより、よっちゃん一家とリンちゃん母娘のように思いやりあう方がどんなにすてきか、パオズの美味しそうな湯気とともに、染みてくる。
 小さなよっちゃんの目線で、よっちゃんが理解している範囲で描いているので、今の子どもたちも読みやすく、共感がしやすいいだろう。戦争を伝える物語のひとつとして推薦したい。

*第61回青少年読書感想文全国コンクール 小学校中学年の部 課題図書

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