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課題図書を読む『ブロード街の12日間』

 今年ももう、課題図書を読むシーズンがやってきました!
 このごろ、課題図書しか紹介していないような……時間が足りない……雑用ばっか増えたのか、それとも能率が落ちて何をするにも時間がかかるのか……もっと生活をシンプルにして、たくさん本を読んでたくさん紹介したいけれど……まずは課題図書です。

ブロード街の12日間
 デボラ・ホプキンソン作
 千葉茂樹訳
 あすなろ書房

    

 1854年の夏、ビクトリア女王の時代のロンドン。主人公のイールはブロード街のライオン醸造所の地下室に住みこみで、メッセンジャー・ボーイとして働く孤児だ。その前はテムズ川の泥さらいをしていた。イールには弟がいるが、事情があって兄弟は追手に追われている。そこでイールはお金を支払って弟を人に預けている。その資金を賄うために、仕立て屋や医学博士のところでも雑用をして働いた。
 13歳の誕生日を目前にした8月31日、イールはライオン醸造所のオーナーから盗みの疑いをかけられる。ブリキ缶に貯めていたお金を見つけられたのだ。自分で働いたお金だと証明してもらうために仕立て屋へ行くと店主のグリツグスさんが青い恐怖――コレラに罹っていた。
 翌日にはグリッグスさんはなくなり、近所で具合の悪い人が出始めたかと思うと、次々に命を落とす人がでてきた。ブロード街界隈の人々はパニックをおこして逃げ出し始める。
 その翌日にはさらに死者は多くなる。イールは棺桶運搬人の手伝いをして、1日中死体を運び続けた。コレラの感染範囲はブロード街を中心にさらに広がっている。グリッグスさんの奥さんと娘のバーニーも感染して、死の淵にいた。医学博士のスノウ博士なら助けられるかもしれない。イールは博士を尋ねていく。
 夜が明け、イールがようやくスノウ博士に会えてコレラ感染の様子を話すと、スノウ博士はすぐにブロード街に来てくれた。しかし、博士は治療はせず、井戸の水を調べるという。
 その時代、コレラは悪い空気で感染すると信られていたが、博士は経口で感染するという説を持っていたが、だれも信じない。今回の感染原は井戸水だと証明し、人々が井戸水をのまないようにすれば、感染は抑えられるはずだった。
 イールは博士の手伝いを申し出る。イールの利発さを見て取った博士は、自宅に泊めて助手にしてくれる。死者のリストづくり、友人のフローリ―に手伝ってもらっての地図づくり……イールは奮闘し、調査は着々と進んだが、町を歩きまわるうちに、追手の目にもとまりやすい。フローリーも感染した――。

 現実に起きたロンドンのコレラ大流行をもとにした話。スノウ博士は実在し、最初の死者は、実際も仕立て屋のG氏であったという。主人公のイールはもちろん架空の人物。このイールの目を通して描かれ、歴史的事実をしっかり伝えつつ、人の心を動かす、おもしろい読み物となっている。
 その要因は、イールの人物設定の巧みさだろう。
 イールはテムズ川で泥さらいをしていたが、やがてブロード街に暮らし、スノウ博士の助手となる。コレラが発生するそもそものはじまりから終息までを目の当たりにすることのできる。さらにその生い立ちから、ロンドンの最下層の人々、市井の人々と接し、暮らしを身に染みて知っている。
 読者は、聡明で観察眼があるイールの言葉を通して、当時のロンドンの様子、人々の普段の暮らしぶり、コレラが発生後の混乱ぶりが、目に見えるようにわかる。コレラの発生源を証明する方法も、イールとスノウ博士、地区の牧師(この人も実在人物)の会話を通して理解できる。
 こうしたノンフィクション的な内容に、イールのフィクションがはさみこまれる。追手に追われるという、わけありのイールの生い立ちは少しずつ明らかにされてくる。追手から身を隠し続けられるか、読者は、はらはらして見守り、弟を守ろうとするけなげなイールを好きになる。そして、どのような立場に追い込まれても前向きに頑張るイールを応援し、スノウ博士に認められ、人のために働くイールの誇りと喜びをともに味わうだろう。

 ところで、この作品はコレラを扱っているにもかかわらず、悲惨さはあまり心にのこらない。病気で苦しむ人、死んでいく人、嘆き悲しむ人の描写はしっかりある。だが、それ以上に、死者を弔うために奔走する棺桶運搬人や牧師さん、感染源を特定しようと奮闘する博士とイールの前向きな姿のほうが強く印象づけられるからだろう。
 そして、イールをはじめ登場人物が、あちこちで慈愛の行動や言葉を見せて、心を温めてくれる。イールの弟や小さな子どもたち、子ネコや犬への思い。スノウ博士のイールへのまなざし、さらには、おそろしい泥さらいの大男ジェイク、スノウ博士の潔癖で厳格な家政婦が思いがけず見せるイールへの思いやり……。
 読後感がとてもいいのは、コレラが終息し、ハッピーエンドで終わるからということもある。でも、なにより、作品全体にちりばめられた慈愛が心をみたしてくれるからだろう。

 見返しには、スノウ博士が作成した(物語内ではイールと友達のフローリーが作成)、感染の状況を表す地図が載せられていて、興味をひく。

*第61回青少年読書感想文全国コンクール 中学校の部 課題図書

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