最近のトラックバック

« D保育園年長さん 1回目 おはなしをきくということ | トップページ | 7月のK図書館分館おはなし会 ずっと来てね »

課題図書を読む『時をつなぐやもちゃの犬』

 マイケル・モーパーゴの作品は課題図書によく選ばれている気がする。実際の出来事から発想をえ、社会的なメッセージの強い彼の作品は、課題図書向きなのだろうか。

時をつなぐおもちゃの犬
 マイケル・モーパーゴ作
 マイケル・フォアマン絵
 杉田七重訳
 あかね書房

     

 第2次世界大戦で、ドイツの軍艦ビスマルク号はイギリスの最大戦艦フッド号を撃沈するが、やがては、英国軍艦に取り囲まれて沈んだ。2200人以上の乗り組み員のうち、助け出されて生き残ったのはわずか104人。彼らは捕虜となった。捕虜たちは戦後送還されるまで、イギリスの労働力となったが、素行のよい捕虜は収容所の外で働くことがゆるされ、なかには家族同然になる人もいた。
 ロンドンの帝国戦争博物館には、ドイツ人捕虜がつくってイギリス人家族に贈った犬のおもちゃとドイツ人捕虜の手紙が、かつて大農場の事務官をつとめていた人の息子から寄贈されている。
 1966年、イギリスで開催されたサッカーのワールドカップの決勝戦では、イギリスと西ドイツが戦い、延長戦までもつれたうえ、いまだに論議を呼ぶ審判の判定で、イギリスが勝利を得た。

 
 この作品は、上の3段落に書いた事実を作者がつなげて、ふくらませ、まとめ上げたフィクションだ。

 イギリス、サフォーク州の農場で暮らす一家には、木製のおもちゃの犬があった。母親、姉、弟と引き継がれてきたおもちゃだ。イギリスでサッカーのワールドカップが開催された1966年の夏、イギリス人とドイツ人のふたりの男性が、一家の農場を訪れたことから、おもちゃの犬に秘められていた物語が蘇る。それは、そのドイツ人が若い頃、親友とともに海軍に入隊し、最強の軍艦ビスマルク号に乗り、第二次世界大戦にのみこまれていったところから始まる。

 戦争で敵対する国のの人と人が、国や時間を超えて、つながる。皮肉にも、憎みあう戦争によって出会わされた人たちが、心を通わせるのだ。
 国同士は憎しみあい戦っていても、個々人はみな同じひとりの人間。家族があり、友だちがあり、未来がある、思いがある。その人間を殺しあうのが戦争だと、実感させてくれる作品だ。
 ちょうど少し前に、朝日新聞「天声人語」に、レマルクの『西部戦線異状なし』には「おれたちはみんな貧乏人ばかりだ。フランスだって大がいの人間は労働者や職人や、さもなけりゃ下っぱの勤人だ。それにどうしてフランスの錠前屋や靴屋がおれたちに向って手向いしてくると思うかい」というドイツ兵の台詞が紹介されいた。
 兵士たちは、相手の国の人を個人的に殺したいと思ったていただろうか? 戦争の愚かしさ、無意味さを感じずにいられない。

 さて、この本は143ページ。かなり字が大きくてイラストも豊富だが、盛り込まれた内容が濃く、海での戦闘やワールドカップの試合は、巻末に別に付け加え、かなり詳しく熱く表されている。
 農場を訪れたふたりの男性がなぜイギリス人とドイツ人なのか、ふたりはなぜ友人なのか、読み手の疑問が少しずつ明らかになっていく筋たては、先に興味を持たせてくれる。
 ラストも、気が利いた演出がしてある。
 だが、ふたりの男性が家族に過去を語るという形で進み、そのあいだに、家族と客人たちの会話もはさまる形式は、子どもたちにとって、はたして読みやすいだろうか? 社会科目の好きな、本を読みなれている子向けに思える。

*第60回青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部 課題図書

« D保育園年長さん 1回目 おはなしをきくということ | トップページ | 7月のK図書館分館おはなし会 ずっと来てね »

児童読みもの」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/148116/59931824

この記事へのトラックバック一覧です: 課題図書を読む『時をつなぐやもちゃの犬』:

« D保育園年長さん 1回目 おはなしをきくということ | トップページ | 7月のK図書館分館おはなし会 ずっと来てね »

2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

Amazonアソシエイト

  • 野はら花文庫は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。
  • Amazon、Amazon.co.jpおよびAmazon.co.jpロゴは、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
無料ブログはココログ