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2014年7月 2日 (水)

課題図書を読む『ともだちは、サティ!』

 今回、アジアが舞台の作品は1作。世界を知るという面では『ただいま! マラング村: タンザニアの男の子のお話 (児童書) 』や『路上のストライカー (STAMP BOOKS) 』と似ているが、日本の少年がそこで過ごすという設定から、2作とは違うメッセージを発信している。

ともだちは、サティー! (Green Books)
 大塚篤子作作
 タムラフキコ絵
 小峰書店

     

 ツトムは、大学で働く父親が仲間と行うネパールの氷河湖調査に連れて行ってもらえることになった。ネパールの首都カトマンズからマイクロバスにのり、途中からは険しい道を歩いて6日後、海抜2900メートルのヤラ村につく。
 村はツトムたちを大歓迎し、子どもたちが満面の笑顔でしぼりたての牛乳をふるまってくれた。だが、牛乳嫌いのツトムはこっそり捨ててしまい、それをふるまってくれた少年に見られ、冷たい目で見られる。
 その年は、雪が多く残っていた。父親は子どもを調査に連れて行くことは危険だと考え、ツトムを村に残すことにした。そればかりか、そのあいだに、山で放牧をする仕事をすると決め、手配してしまった。ヤラ村では、夏のあいだ10歳の子どもがひとりで、山にはいって家畜を放牧する。ツトムはひとりで放牧にいけないので、村の少年のひとりについて山に入ることになった。しかも、ツトムがついていく少年は、よりにもよって、ツトムが牛乳を捨てたのを見とがめた少年パニだった。
 ツトムは、無事に仕事をやりとげられるだろうか? 言葉が通じない上に、気に食わないパニとうまくやれるだろうか?

 テーマはずばり、異文化や他者の理解と受容。ツトムとパニは、まったく違う環境で育ったばかりでなく、出会いから深い溝ができてしまった。物語は、ツトムの視線で始まるが、途中からはツトムとパニの視線が交互になって進む。相容れないふたりの視線が交互にでてくることで、両者の気持ちが変化し、互いにうけいれていくさまが両方面から描かれていく。
 ツトムは日本という文明社会でなんでもスマートにでき、それを自慢に思っている。けれども、ネパールの村での原始的な暮らしでは、なんの役にもたたない。火をおこすことからすべて、悔しくともパニに習うしかない。一方、パニは山へ一人で行って放牧できるようなった自分を誇らしく思っている。その栄光を、何も知らないくせに生意気なツトムに横入りされて気に入らない。だが、ツトムは犬たちに慕われる。よくがんばり、物覚えもはやくて、認めざるをえない。
 作品が伝えるのは、異なる風土風習、異文化の受容にとどまらない。ツトムがネパールに来る前に友だちのゴウと仲たがいしたエピソードや、ゴウへのツトムの思いの変化を、ネパールでの体験物語にさしはさむことで、他人を受容し、相手の立場への思いやるといった普遍的な人とのつながりまで裾野をひろげている。
 異なる他者を知り、受け入れようとするのは、他人とつながる基本的な態度だ。

 それにしても、10歳の子どもがネパールへ行き、山道を6日間も歩くというだけでも、わたしは心配するが、言葉も通じず電気も通らないところにひとりほっぽりだすとは、ツトムの父親は、まあなんという大胆さだろう。もちろん、ツトムは、それに負けない根性と聡明さを持ち合わせていて、すばらしい体験をする。
 ツトムと同じような経験は誰にでもできるものではない。けれど、本を読んで心の体験をすることで、なにかが心に残って読者の力になると、思わせてくれる作品だ。

*第60回青少年読書感想文全国コンクール 小学校中学年の部 課題図書

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