課題図書を読む『路上のストライカー』
青少年読書感想文全国コンクールの課題図書を読む季節が今年もやってきた。
今年は、『ミルクこぼしちゃだめよ!
』『ちきゅうがウンチだらけにならないわけ (福音館の科学シリーズ)
』『語りつぐ者
』と、すでに読んで気に入った作品が入っていて、先見の明があった気がして、ちょっと嬉しい。
『語りつぐ者
』は、昨年の夏に紹介していた。紹介文を読み返すと、いまひとつわかりにくいけれど、ご容赦ください。
今回紹介するのは、高校生の課題図書
『路上のストライカー (STAMP BOOKS)
』
マイケル・ウィリアムズ作
さくま ゆみこ訳
岩波書店 STAMP BOOKS
2008年、南アフリカでおきた外国人襲撃。標的になった外国人のひとりひとりにも、南アフリカへやってきた事情がある。その事情をを知っていたら、人々は、その外国人を襲撃できただろうか? そう考えた作者が、南アフリカで難民となったジンバブエの少年ディオを主人公に物語を書き、国を超えた人間の尊厳を問いかけている。
15才のディオはジンバブエの村で、祖父手づくりのボールで友だちとサッカーをして遊び、貧しくとも穏やかに暮らしていた。だがある日、村が、大統領の兵隊たちに襲われ、村人たちは虐殺される。ディオは、精神的な障害をもつ、10歳上の兄をつれて、命からがら兵隊たちからのがれる、死の危険を冒して南アフリカへ渡るが、そこでは、さらに厳しい現実が待っていた。不法移民を働かせるトマト農場、大都市ヨハネスブルク、貧しい黒人居住地アレクサンドラ・タウンシップ、難民キャンプ、ケープタウンのストリートと渡り歩き、様々な人と出会って別れ、過酷な経験を繰り返し、とうとう絶望の淵にまで追い込まれて自分を失ったディオを救ったのは、ストリートサッカーだった。
村人全員の虐殺からはじまり、悲惨な場面が続く。テーマは重く、アフリカ諸国の独立後の民主化の動乱、貧富の差、難民など、アフリカの抱え様々な問題が織り込まれている。
けれど、どんなに悲惨でも読むのがつらくなることはなく、先へ読みすすみたくなる。物語が感傷的になりすぎず、起きたことを淡々と伝えて進んでいくこともあるが、それだけではない。
人間の情愛、大きさを感じさせる人たちが登場し、あたたかい気持ちにさせるのだ。とくに、松葉杖の少年をなんとかして国境をこえさせようとする父親と、ディオをふくめて関わった人たちの行動には、感動した。
さらに精神障害の兄イノセントの存在が大きい。子どものように無邪気で、事態をまったく飲み込めず、突然なにをしでかすかわからないイノセントは、こうした厳しい状況ではたいへんな足手まといだ。だが、イノセントの人間として正直な感情や、とっさにおこす意外な行動、緊張した場にそぐわない気の抜けたふるまいは、悲痛な場面でも、どこかユーモアやを感じさせ、心を和ませる。足手まといどころか、弟のディオの心のよりどころとなっていて、兄弟のつながりは、読み手の心をあたためる。
しかし、なんといっても、クライマックスは、ストリートサッカーの戦いだ。
南アフリカ共和国に流れていく多国籍の難民たち、そして南アフリカに元から暮らす人たち。それぞれの事情と立場がある。それでも、お互いを尊重しつつ、ともにに生きられたらいい。その理想を、ディオとチームの仲間が、ストリートサッカーで体現して見せるのだ。多国籍のメンバーが力を合わせる戦いに、わたしたちは、熱い歓声と喝采を送らないではいられない。
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