課題図書を読む『フェリックスとゼルダ』
あまりにつらい物語です。
『フェリックスとゼルダ
』
モーリス・グライツマン作
原田勝訳
あすなろ書房
舞台は1942年のポーランド。主人公の男の子フェリックスはユダヤ人で、孤児院に預けられている。フェリックスはナチスから隠されているのだが、事情をなにも知らされていない。カトリックの教えを守り、アドルフ・ヒトラーを敬愛するよう教えられている。
ある日、孤児院にナチスがやってきて、孤児院に隠してあったイディッシュ語の本を焼き払う。フェリックスは、悪者がポーランド中のイディッシュ語の本を燃やそうとしていると思いこみ、本屋を営む両親に、本を隠すよう知らせるために、孤児院を抜け出す。だが、ようやくついた家に、両親はいなかった――。
フェリックスは両親をさがしに歩き出し、やがて、家と両親を焼かれひとりぼっちになった幼い少女ゼルダに会う。
ホロコーストを、無垢なユダヤ人少年の視点で描いている。フェリックスは想像力にあふれ、お話を創るのが巧く、思いやりに満ちたやさしい子だ。孤児院で、いじめられる新入りの子を助けたり、幼いゼルダと歩くとき、ゼルダの気がまぎれるように、ずっとお話をしてやったり、周りの人がどうしたら悲しまないか考えたり……。そのやさしさは、どんなにつらい立場に追い込まれていても変わらない。きっと両親の愛情を十二分に浴びて育ってきたのだろう。
前半、ホロコーストの現実を知らないフェリックスは、次々起こる残酷な出来事を、自分のいいように解釈し、ナチスから逃げるどころか近づいていってしまう。そんな彼の無邪気が、なんとも哀れで恐ろしい。
現実を知ってからの後半、さらに非道なことが行われていく。こんなに素直で優しい子がなぜ? なんの罪もない子たちがなぜ? こんなことがあっていいはずはないと思わざるをえない。
この作品はフィクション。でも、書かれていることは、ポーランドのどこかで現実に起きたことだ。原題は、"Once""。全章を「昔、○○は、」とまるで、空想好きのフェリックスが、創作したように語る。こんなことを現実と考えたくない、だが現実。だが、かつて人間がとんでもない間違いを犯してしまったことを伝えておかなければならない。その思いが、こうした形式の作品になったような気がする。
*第59回青少年読書感想文全国コンクール 中学校の部 課題図書
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