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2012年7月22日 (日)

課題図書を読む『地をはう風のように』

夏休みに入った。これからは図書館の課題図書は、小中学生、高校生のみなさまが活用してくださいませ。ということで、今年度は、この本が最後となりました。中学年、高学年の本があまり読めなかったのが、心残りです。夏休みが終わるのを待ちます。

地をはう風のように (福音館創作童話シリーズ)
 高橋秀雄作
 森英二郎画
 福音館書店

     

 戦後10数年後。舞台は、日光連山を見上げる鬼怒川沿いの、新田が開かれた小林という地域。主人公コウゾウは小学生6年生、母、祖母、来年1年生に上がる弟の稔と暮らしている。父親のいない家は貧しく、近くの、母と祖母が「本宅」と呼ぶ家に頼らなかければ生きていけない。本宅とは、祖父母が結婚する前に働いていた家だ。祖父は作男、祖母は住みこみの使用人だった。今でも、祖母と母は、本宅の田んぼの手伝いをしにいき、コウゾウや稔も手伝い、夕ご飯やお風呂をもらう。コウゾウの家にお風呂はなかった。
 家では、コウゾウは薪わりなどの力仕事をしなければならない。学校では貧しい家の子として見下された。コウゾウは、しょっちゅうけんかをして大暴れした。

 田植えのころ、母親は、家族を養うために、土方の飯場のまかないに住み込みで働くことを決めた。祖母と弟とコウゾウの3人暮らしが始まった。学校では、転校生の文子がやってきて、コウゾウの隣の席になる。コウゾウは文子には変な目で見られたくないと願い、学校で暴れないようになり、真面目に授業を受けるようになる。すると、勉強が少しできるようになり、先生にも褒められた。

 春から春までの1年間の、コウゾウの暮らしを、コウゾウの視点で描いた作品。コウゾウの家の貧しさは、半端ではない。米は不自由していないようだが(米を本宅でわけてもらっているかどうかは、作品内では触れられていない)、おかずは漬物だけの日が続く。たったひとつの卵に小麦粉をまぜて卵焼きを焼き、それを兄弟でわけてお弁当にいれ、今日は「ごっつぉおだ」という。そんな村いちばんの貧しさなのだ。地域では、コウゾウの家の事情は、みなに知られている。

 本宅に気をつかい、へりくだる祖母や母を、コウゾウは疎ましく思う。でもコウゾウも同じようにお世話になっている本宅では小さくなっていなければならない。家の仕事もある。そのうえ、学校でも馬鹿にされる。卑屈になりそうなのを懸命にこらえているから、学校では、感情が爆発してしまうののだ。
 厳しい自分の誇りを守ろうと、必死に戦って生きているコウゾウが、愛おしい。

 世間の狭い地域社会は、互いに内情を知り合っているけれど、その分、家単位での偏見やら階級などが築き上げられていて、けっこう冷たいものだ。貧しいコウゾウの家は蔑まされ、有力者の家は尊敬される。その力関係が、そのまま子どもたちにも反映されてしまう。たいていは貧しい家の子は、教育もおろそかになるから成績も振るわない。
 そうした偏見から離れてコウゾウのよさを見てくれたのが、新しくきた担任の先生や、転校生だった。そして、本宅の息子(といっても、もう大人)は、父と違う新しい考え方をもち、使用人だった子のコウゾウを対等の人間として見てくれる。そうした人に励まされ、この先、コウゾウは自尊心を持って、成長していけるだろう。

 わたしは、この作品の時代より少しあとに生まれた。でも、父の勤める町工場の社長の家は、やはり「本宅」と呼ばれていた。私たちは、ときどき家族で本宅におよばれに行き、家では食べたことのない、みたことのない、贅沢なごちそうをよばれた。本宅には黒塗りの車があって、運転手さんがいつもピカピカに磨いていた。わたしの家にはまだ車がなかった。本宅以外は周りの家もそうだったから、自分が惨めだと思ったことはないけれど、あこがれた。また、祖父母の家で、田植えや稲刈りを手伝ったこともある(その田は、今は他人に貸している)。大人たちは、子どもがすこし働くと大げさにほめてくれた。
 そんな思い出があるからだろうか。コウゾウほどの貧しさ、惨めさは知らないけれど、この物語は、自然にすーっと心に入ってきた。

 地味な作品だ。恵まれた暮らしをしている今の子どもたちが、コウゾウの苦しみをどこまで実感できるかわからない。でも、どんなときも誇りをもって生きようとするコウゾウに共感することはできるだろう。心に何かを残してくれるはずだ。

*第58回青少年読書感想文全国コンクール 小学校中学年の部 課題図書

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