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課題図書を読む『ダーウィンと出会った夏』

 タイトルを読み、ページぎっしりの文字を読み、難しそうだなあと、敬遠していた本。ところが、読みだすと、おもしろくて止まらない。ずっと読んでいたい作品だ。

ダーウィンと出会った夏

 ジャクリーン・ケリー 作
 ベス・ホワイト カバー挿絵
 斎藤倫子 訳
 ほるぷ出版

     

 1899年、テキサス州。キャルパーニア・ヴァージニア・テイトは、この年の夏、「12歳といっていい、11歳」。彼女は、綿花工場を営む家族の7人きょうだいの真ん中の、たったひとりの女の子。でも、普通のおとなしい女の子とは少し違う。家族が暑さをしのぐために昼寝をしているときにこっそり抜け出して川に行き、スリップ1枚で川に浮かんで、自然観察をしている。
 ある日、キャルパーニアは長兄から観察ノートをもらい、観察したことを書き留めはじめる。そして、よく知っている緑色の小さなバッタとは違う、黄色の大きなバッタがいることに気づく。なぜ黄色いバッタがいるのか、キャルパーニアはどうしても知りたくて、それまで恐れていて近寄ったことのない祖父に、思い切って尋ねる。祖父は、実験室で実験するか、標本採集に歩き回るか、書斎で本を読みふけるかしている変わり者で、孫たちにはまったく関心がない。キャルパーニアの話をきいた祖父は、「おまえさんのように賢い若者なら、自分で解決できると思うがな。わかったら、答えをいいにきなさい」と言ったきり。キャルパーニアは、町の図書館でダーウィンの『種の起源』を借りて調べようとしたが、図書館員に「そんな」本はおいてないと、横柄な態度で追い払われてしまう。失望した彼女だったが、ついに自力で答えをみつけだし、祖父に伝える。それからキャルパーニアと祖父の交流が始まった。
 祖父は、キャルパーニアを標本採集につれだし、実験を手伝わせ、学校では習ったことのない哲学、自然科学、宇宙、物理、さまざまなことを話してくれる、彼女も夢中になる。ふたりで、新種と思われる植物もみつけた。
 だが、母親は、一人娘に幸せな結婚を望んでいた。そして、大嫌いな手芸、料理をキャルパーニアに教え込もうとする。祖父と過ごす、至福の時間は、どんどん削られていった。

 1899年の6月から世紀の変わる1900年の年明けまで、約半年間の、キャルパーニアと彼女をめぐる人々の暮らしを描いている。緊張するピアノの発表会、長兄ハリーの恋、親友リューラに恋心を持った3人の兄弟の争い、誕生祝に祖父から贈られたアマゾンオウム、感謝祭の七面鳥騒動など、それぞれに個性ある人間がいるからこそ起きてくる、様々な事件がつづられていく。観察眼にすぐれたキャルパーニアが一人称(わたし)で、大真面目に自分の考えを正直にさしはさみながら、細部まで語る。その文章には、そこはかとないユーモアがある。

 たとえば、祖父からはじめて地動説を教えてもらった時の、時の経過については、

「何時間もが過ぎ、太陽が頭上を動いていった」(というより、正確にいうなら、太陽のしたでわたしたちが動き、昼間から夜へとゆっくり回転していた)」(P38より引用)

 また、ピアノ発表会のため、髪をセットされるときの様子についてはこんな具合だ。

「カールさせるために髪を少しずつ木綿のはぎれで結んだ。頭中にはぎれがつったち、包帯を巻いたかのように――しかも、おそろしく下手な巻き方をしたように――なった。わたしは、硫黄のにおいをさせ、戦争で負傷したかのような姿をしていた。まるで地獄からあらわれた幽霊みたいだった。(p79)

 読みはじめは、あまりに丁寧な描写についていけない気がするが、次第にキャルパーニアの語りに引き込まれ、夢中になっている。人間とは面白く、その人間が絡み合って織りなす出来事は、まったく面白い。人生はわくわくする。そんな気持ちにさせてくれ、いつまでも読んでいたくなる。

 このそこはかとなくただようユーモアは、巧みな翻訳により、原文がそこなわれることなく、私たちに届けられているからでもあるだろう。『シカゴよりこわい町 』(リチャード・ペック作 東京創元社)の訳者である斎藤倫子さんの文章は、日本語の柔と硬を縦横に使って、楽しませてくれる。

 ストーリーの軸となり、読者をもっともわくわくさせるのは、祖父とキャルパーニアが新種かもしれない植物をみつけ、スミソニアン協会に送って結果を待つ顛末だ。キャルパーニアの祖父への思慕、祖父に新種食部の調査員として対等に扱ってもらえる誇りは、切なく、そして、胸躍らされる。

 さて、この作品のもうひとつの魅力は、19世紀末のテキサス州の片田舎の空気を運んできてくれることだ。ダーウィンの『種の起源』は刊行され進化論は世に出ていたけれど(1859年)、人々はまだキリスト教の創造論を信じている。南北戦争は終わり、奴隷制は廃止されたけれど(1865年)、黒人の血が混じっていれば差別を受けていた。また、職業婦人も出現していたが、まだまだ一般的には女性は家のことをするものと思われている。こうした歴史のかけらは、あちこちの場面にちらばっている。図書館が『種の起源』を子どものキャルパーニアに貸すのをためらったり、南北戦争ごっこをするとき、子どもたちが南軍の役をやりたがったりする。さらに、電話、自動車といった新しい文明の器が現れる様子も描かれている。急速な近代化への変化のアンバランスな時代。それは、大人以上の思考力、観察力を持ちながら、まだ幼稚さを残すキャルパーニアとも重なる。

 キャルパーニアは、将来は結婚して主婦になることを両親から当たり前に押し付けられていて、それが彼女を大いに悩ませる。作品では、キャルパーニアの夢を語るにとどめ、その後の彼女がどうなったかは、読者の想像に任せられている。けれど、きっと、夢を切り開いたと思いたい。そして、できれば、キャルパーニアのその後の日々の暮らしを、もっともっと、続けて読みたい。

*第58回青少年読書感想文全国コンクール 高校生の部 課題図書

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