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2012年6月13日 (水)

課題図書を読む 『オン・ザ・ライン』

 こんなに泣いた本――正確にいば、こんな風に泣いて読んだ本は今までなかった。涙があふれて読めなくなって、一度、本を閉じ、気持ちを落ち着かせて、読み始めると、またこみあげてくる。それを繰り返しながら読み進み、読み終えてから、また、涙。明るさのなかに、きゅんとするもののある涙。切なくて、でも未来が開けている。

オン・ザ・ライン (SUPER! YA)
 

 朽木祥作
 小学館

     

 日高侃(かん)は活字中毒。だが文学を語り合ったり、薦められたりするのは嫌なので、隠している。高校(元高)に入って、オールマッスルズ(つまり体育会系)でいこうと考えていた。そんな時、前の席の貴之からテニス部に誘われ、入部を決める。貴之は身長も高く、運動も勉強もできる。何をやっても格好よくて、性格も竹を割ったようで気持ちがいいやつだ。男子テニス部は2年生は3人。顧問の先生もあきらめた弱小部。そのなかで貴之、侃、クラブチームにいた亮介、侃と同じく初心者だがこつこつ方の昴太郎の4人は、自分たちでプログラムをたてて、猛練習を始める。貴之は、相手の身体を狙うようなプレーを嫌い、常に正々堂々としフェアに戦う。貴之にはかなわない。侃は貴之にあこがれ、貴之の彼女に密かにな恋をし、テニスが楽しくてたまらなった。テニスに明け暮れる毎日。合宿ではサッカー部に誘われてみんなで裸になり、クリスマスの闇鍋では、わけのわからぬものを食べるバカもやった。だが、ある日、とんでもない事故が起こり、お気楽で幸せな日々が暗転する。

 侃と貴之、それにテニス部1年の亮介に昴太郎、彼らのまわりの元高の生徒たちも、みな、本当に気持ちのいい高校生だ。高校生活をのびのびと謳歌し、先生たちも彼らの行動をを大目に見ている。物語の前半は、部活に熱中する少年たちの姿が、生き生きと描かれている。楽しくて仕方がないテニス。さばさばした男の友だち関係。一方通行の恋。怖いもの知らずの向上心。若いエネルギーの発散。まるで、若竹がまっすぐに伸びていくような彼らが、すがすがしい。格好よさの陰で人一倍の努力し、正々堂々と戦うのが好きな貴之と、その貴之を尊敬し、まっしぐらに追う侃。ふたの関係はこの上なく素晴らしく、まぶしい。
 だからこそ、こんなに気持ちのいい子たちだからこそ、ふいに訪れる暗闇が、あまりにもむごくて、胸をゆさぶられる。どうしようもない侃のつらさが痛いほどわかる。
 陽気な若さをふりまき軽やかに駆ける前半とうって変わって、後半で、侃は鬱々と動けずにいる。取り囲むのは、認知症のはじまった祖父と瀬戸内海の島の子どもたち。この子どもたちがまた素晴らしい。事情を何も知らないから気遣いなく侃に接する。だから侃も生きるのに耐えられる。そして八才にして人の気持ちを読むことのできるカラス坊。時々スイッチが入って含蓄のあることをいう祖父が、侃をふたたび前に向かせる。

 侃も貴之も、曇りのない晴天のような青春には戻れない。けれど、それも青春、そしてそれこそ人生だ。人生を踏み出す人たちに相応しい一冊。

 さて、この作品の大きな魅力、特徴は、文学や絵画、音楽が紹介されることだ。活字中毒の侃は、祖父、父と引き継がれた本を読み、また家族や同級生たちの会話や、文通する絵葉書にさまざまな芸術作品が登場する。わたしはセンダックの絵本やフェルメールぐらいしかわからなかったが、いまはパソコンでなんでも調べられる。ひとつひとつの作品をあたってみたい。

*第58回青少年読書感想文全国コンクール 高校生の部 課題図書

 

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