佐藤多佳子『第二音楽室』
課題図書『聖夜 ― School and Music 』の、文字通り、姉妹作。女の子たちが主人公だ。
佐藤多佳子作
文藝春秋
女の子を主人公に、音楽を通して学校生活を描いた4篇。
主人公の女の子の年齢は、小学生、中学生、高校生とそれぞれ違う。時代背景もここ20年の現代だが、作品により年が違う。女の子たちは、1900年代には「私」と自称するが、2000年代になると、自分を「ウチ」と呼ぶ。
表題作「第二音楽室」は、2005年の小学校が舞台。主人公は5年生。鼓笛隊で、個人の楽器からあぶれ、その他多勢のピアニカを4年生と一緒に演奏することになった4人が、連帯感でつながっていく。
1993年が舞台の「デュエット」は、12ページと短い。中学の音楽のテストに、好きな男女でデュエットをすることになり、一気にクラスは湧き立つ。
「FOUR」は、時がもっとも過去で1988年。卒業式にリコーダーでアンサンブルを演奏するべく選ばれた4人(男子と女子が2人ずつ)のほぼ1年間の物語。少しずつ距離をちぢめていく4人、育ち盛りの彼ら、特に男子の成長、それに女子たちの淡い恋の行方がさわやかに描かれる。
今時の子どもたちの問題を表し、読ませるのは「裸樹」、舞台は2009年だ。
主人公の女の子は、中学2年のとき、友達の好きなお笑いタレントの軽い悪口をいったことから、クラス中に無視され、いじめを受ける。ついに耐えられなくなり、下校途中の公園でうちひしがれていると、髪の長い若い女性がギターを弾き語りしていた。その歌は心にしみ、主人公はポロポロ涙をこぼす。それから、主人公は不登校になり、ほぼ半年後、女性が歌っていた曲をラジオで聞く。曲名は「らじゅ」。アーティストは「裸樹」でストリート出身だ。もしかしたら、公園で出会った女性は裸樹本人かもしれない。主人公は裸樹のファンになり、ギターの練習もはじめる。
家庭教師について受験勉強もし、同じ中学の子のいない女子高へ合格、登校するようになった主人公は、お笑い系のキャラをつくり、いじめを受けないよう、まわりの顔色をうかがって、慎重の行動する。軽音楽部に入ったが、ギターが弾けることは伏せて、リーダー格の子に決して逆らわない。軽音楽部には、2年くらい留年していて、あまり学校に来ない3年生の謎の幽霊部員がいた。その謎の幽霊部員が学校にきたとき、出会い言葉を交わした主人公は、彼女こそ裸樹ではないかと思うのだが……。
ささいなことから始まったいじめ。いじめていた人たちが、特別に意地悪な子たちでなく普通の優しい子たちだったことが、主人公の人間不信を一層深刻にしている。主人公は、まわりの都合のいい人間を演じることに全力をつくし、疲れていく。その姿が痛々しい。これは、現代の子どもたち(大人たちも含まれるが)の傾向でもある。
人とつながりたい、仲間からはじかれたくないから自分を隠せば、結局は表面的にしかつながれず、苦しいだけ。そんなジレンマのなかで、「らじゅ」の歌詞が心に響く。「……/はだかの木が 冬に立つ/むきだしで 冬に立つ」
裸樹の歌、謎の先輩、軽音楽部とのかかわりを通して、主人公がもがき自分をとりもどしていく姿が心にしみる。中高生の女子におすすめ。
« J東児童館夏休みのおはなし会 | トップページ | I保育園 おはなし会 »
「児童読みもの」カテゴリの記事
- 課題図書を読む『ある晴れた夏の朝』(2019.07.09)
- 課題図書を読む『サイド・トラック 走るのニガテなぼくのランニング日記』(2019.06.29)
- 課題図書を読む『そうだったのか! しゅんかん図鑑』(2019.06.23)
- 課題図書を読む『クニマスは生きていた!』(2018.07.04)
- 課題図書を読む『太陽と月の大地』(2018.06.23)
こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
投稿: 藍色 | 2012年7月31日 (火) 23時54分
藍色さん
ご連絡をありがとうございました。
藍色さんの感想記事も読ませていただきました。
ところで、トラックバックができていないようです。もう一度やってみてください。
投稿: そらこ | 2012年8月 1日 (水) 06時34分