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2011年6月 2日 (木)

課題図書を読む(2011)『マルカの長い旅』

早いものです。もう、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書を読む季節がやってきました。
今年もがんばります!!

まずは、以前から、あちこちでタイトルを見て、読みたいと思っていた本。

高校生の課題図書。

マルカの長い旅
 ミリヤム・プレスラー作
 松永美穂訳
 徳間書店

    

 ポーランドのラヴォツネで、ユダヤ人女医のハンナは、ミンナ、マルカの2人の娘と暮らしていた。第2次世界大戦時、ドイツ軍のユダヤ人狩りが始まる。危機を感じたハンナは娘たちをつれ、ハンガリーへ逃れることにする。
 着の身着のまま、複数の知人を頼って、森を超え、ようやくハンガリー領内にはいったものの、ハンガリーの警察は、ユダヤ人を捕まえてはポーランドに送り返していた。大都市ブダペストに行って人ごみにまぎれるまでは、安全ではない。人目を避け、山の道を行かなければならなかった。ハンナは、金をとって避難民を助けるハンガリーのユダヤ人コポロヴィッツに、逃亡するユダヤ人グループに合流させてもらう。
 しかし下の娘マルカは、高い熱をだしていた。険しい道を歩いていくのは無理だ。幼いマルカなら、コポロヴィッツの娘として列車に乗っても怪しまれないだろう。回復したら、次の町まで列車でつれてくるよう、ハンナは、コポロヴィッツに頼んで、マルカを残し、ミンナと旅立つ。しかし、回復したマルカを、コポロヴィッツは近くの町に放り出す。

 別れて旅した母娘の、9月から3月までの半年を、母親のハンナと娘のマルカ、2人の視線で描く。どちらも、出来事とそのときの気持ちが淡々と語られるために、物事をしっかりみつめながら読み進むことができる。その時を生きた人の数だけあるユダヤ人迫害の歴史を、母と娘の目を通して、私たちは垣間見る。
 だが、この作品は、歴史を語るだけのものではない。時代を超えた人間の姿を表しているのだ。

 マルカはまだ7歳。自分の置かれた情況もよくわからず、未来の予測もできず、ただ、起きること、目の前のことに従い、本能的に生を選んでいく。警察の地下室、ゲットー、ユダヤ人病院……。注意深くまわりを観察し、見聞きした、ほんのわずな情報をもとに自分なりに考えて行動する姿は、人はどんなときも生きようとするものなのだと感じさせられる。母親より、旅の途中で親切にしてくれた女の人を慕うのは、無意識に、母親に捨てられたという思いを封印して、精神を病むのを自衛しているのだろう。

 一方、母親ハンナは旅のあいだ自分の過去をみつめ続ける。マルカを残してきたのは、果たして正しい判断だったのか、自分が楽になるためではなかったか、という自問、自責にはじまって、この事態を招いた原因を自分の過去にさがしていく。ドイツ軍兵士の診療、夫についてパレスチナにいかなかったこと、結婚前のポーランド貴族との恋、父への反抗……。そこには常に、自分がただのユダヤ人でなく、医師であるという誇りがある。だが、その誇りは、他の人と違うというおごりではないか、強い名誉欲にすぎないのではないか。自分の意志を通してきた報いが今につながったのではないか。自尊心が揺らぐなか、16歳の上の娘ミンナの反抗にもあい、徹底的な自己否定感を味わう。ミンナが、かつてのハンナが父親に逆らったときと同じ言葉で、自分の意思を通そうとすることが興味深い。

 物語は、ストーリー展開としてはハッピーエンドだが、心情的には、先が見えないまま終わる。過去を覆され、傷を負った母娘は、新たな出発点にたっている。これから、どういう道のりを歩んでいくか?は、読者の想像にまかされている。
 出生から今この時までの時の積み重ねが、現在をつくる。だれもが、よくも悪くも過去を背負い、また新たな過去をつくっていく。それが生きるということなのだと思う。

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