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『アニーのかさ』生きるって

 ふと 手にした本が、最近身近であった悲しい別れにあまりに重なっていたので、共時性を感じてしまった。

アニーのかさ

 リサ・グラフ作
 武富博子訳
 講談社

 10歳のアニーは自転車に安全に乗るため、ヘルメットはもちろん、ひじあて、ひざあて、そして足首にはテーピングをかかさない。アニーは体のどこかに問題があるのだろうか? いいえ、健康そのもの。アニーはただ、病気や怪我が異常に心配なのだ。
 その心配性は、2つ上のお兄ちゃんが5か月前に突然、亡くなったことから始まり、いまも続いている。そんなアニーを、近所の大人たちは「お兄ちゃんを亡くしてかわいそうな子」という目で見た。
 アニーを支えるべき両親もまた、息子の死の悲しみを乗り越えていない。母親は兄の部屋に鍵をかけて封印しまった。父親は仕事にかまけて、家族と話していてもいつも上の空だ。
 そんなころ幽霊屋敷と呼ばれていたお向かいの空き家に、フィンチさんというおばあさんが引っ越してくる。

 愛するものの死を受け入れていく過程をあつかった物語は多い。だがアニーが亡くしたのは、高齢の祖父母ではなく、元気な兄。それも突然の死だった。そのため、悲しみ、喪失感だけでなく、病や死への不安、恐怖がアニーにとりついてしまった。
 病気や怪我を過度に予防するのは、一見生きようとしているように思える。だが本当の意味では生きていない――生を喜んでいないのだ。のろのろ運転の自転車では風をきって走る爽快感は味わえないし、ばい菌を気にしていたら屋台の食べ物は食べられない。アニーは生きながら死のうとしていたのかもしれない。
 こうした暗い状態から抜け出すには、長い時間ときっかけが要る。この物語では、新しい隣人のフィンチさんをはじめ、悪がきのダグや友達のレベッカ、兄の親友トミーなど、周りの人々とアニーがかかわるなかで、小さなきっかけがいくつも生まれ、アニーを明るい生へと導いていく。生きるのは人間の本能なのだ。

 こうして書いていくと、さぞかし暗い物語だろうと思われるだろうが、アニー一人称の語り口は、ユーモアがあり明るい。心が死にそうななか、懸命に生きようともがいているからかもしれない。だが、読者はこの明るい語り口により、深刻なテーマの物語を、重苦しくなりすぎずに読みすすめる。たくさんもりこまれたエピソードにすべて意味があり(それは、わたしたちが経験することすべてに意味があることにもつながる)、見事に練られた作品だ。
 フィンチさんがアニーに紹介する、ある児童書。もう一度読み返してみたくなった。

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