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2010年6月21日 (月)

課題図書を読む『インパラの朝』

 高等学校の部の課題図書。

 社会音痴のわたし、その中でも地理は大、大、大苦手。そういうわたしを突き放したような文章――。これはとても最後まで読みとおせないと思った。でも好奇心をくすぐられる。もうすこし、もうすこしとコマ切れで読むうち、結局最終ページにたどりついていた。

インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日
 中村安希著
 集英社

     

 著者の中村安希さんが、2006年から2年間、ユーラシア・アフリカ大陸をひとりでまわった旅紀行。中国からはじめて東南アジア、中東、東アフリカ、南アフリカ、西アフリカをまわり、ヨーロッパにきてポルトガルで旅を終えている。文中の言葉(P202)をひろえば、予算は180万円。交通手段は電車、バス、トラックのほか、ヒッチハイクや徒歩。宿泊は宿泊施設のこともあれば、野宿のこともある。ボランティアをするための施設、孤児院に民家にしばらく滞在したりもする。現地の人、さまざまな旅人と密に関わり、彼女の感じたままが言葉となっていく。大自然や遺跡をめぐる物見三昧の観光旅行ではない。彼女の興味の対象は人間とその場所の空気、社会だ。
 1つの国で1つ、ときに2つ、ある場所でのエピソードをとりあげて、事実を事実として淡々とつづっている。旅は長く、出来事はとぎれなくあるはずだが、エピソードとエピソードのあいだは、ポーンと飛んでいる。そうして、ひとつのエピソードをピックアップすることで、その土地の様子を凝縮して表し、読むものに強く印象づける。

 はじまりの1話は、中国の立ち席の満員列車だ。「満員列車に詰め込まれた荷物と人の海は、吐き捨てられたツバや食べカスと入り混じって異様な悪臭を放っていた」(p19)とある。もうこれだけで、わたしは正直いって、生理的に読みたくないと思った。しかし、読み進めるうち次第に、そうした汚ないものへの描写に慣れ、気にならなくなった。事実を事実として書いているだけだ。
 ちょうどそのころ本のなかでは、著者がタンザニアで、ハエが張り付いたご飯を、右手でつかんで自然に食べている自分に気づく。以前は現地の人の真似をしようとしても、どうしても手がスプーンに伸びていたのに(P176)。
 著者の変化と、わたしの変化の一致が興味深かった。もちろん、この本を読んだからといって、わたしはハエの張り付いたご飯を食べることはできない。著者とはレベルがまったく違う。でも、わたしの中のなにかしらが変った。他国、他民族のの文化を受け入れるとはこういうことだと疑似体験した気がする。

 著者の中村安希さんの目を通して、異国を知るなかで、特にはっとさせられ、今後自分の中で見極めていかなければないないと思ったのはふたつ。ひとつは、テロとイスラム教について。もうひとつは海外支援とボランティアについて。
 わたしは自分の常識で物事を見る。それが通用するのは、自分が生きてきた狭い枠内だけのはずなのに、自分の枠をこえた場所でもその常識をふりかざしてきたのではないか。
 中村安希さんは、アジア・アフリカに、たったひとりの自分をおき、その場所に生理的に受け入れた勇敢な女性だ。わたしたち全員が、彼女のような旅ができるはずはない。けれど、その紀行文を読むことで、いくらかでも、常識のわくを広げ、世界を公正に見る目ができる。

感想文は書かなくてもいいから、高校生はじめ若い方に読んでほしいな。

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