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軽くて深い 新感覚の物語『はみだしインディアンのホントにホントの物語』

 とにかく面白い! 内容はかなり深刻だけれど、語り口は、めちゃくちゃ軽い。大笑いしちゃうけれど、じーんと涙がにじむ。特殊なことだけれど普遍的。今までに知らない、新しい読感触の本だ。

はみだしインディアンのホントにホントの物語 (SUPER! YA)

 シャーマン・アレクシー文
 エレン・フォーニー絵
 さくま ゆみこ訳
 小学館

     

 こんな本に出合ったのははじめてで、読み始めは、予想を覆されつづけた。
 表紙には『はみだしインディアンのホントにホントの物語』(「ホントにホントの」は、吹き出しでつけたしている)といった楽しそうなタイトルがあり、黒ぶち眼鏡でボサボサ髪の男の子がびっくりした顔をしている。パラパラとめくると、漫画っぽい挿絵や文字の書きこみ、吹き出しも見える。これは、中高生が喜びそう、さて、どんなおふざけ話だろうと、本文を読みはじめれば、いきなり、

   生まれたとき、オレの脳には水がたまっていた。

 深刻だ。主人公が水頭症で生まれ、手術をし、その後遺症があり、そのためにいじめられたこと、そのうえ、家がその日の食べ物も欠くぐらい貧しく、貧しさ故に悲しい経験をしなければならなかったこと、インディアンだから貧乏からぬけだせないことが書かれていく。語り口はものすごく軽い。でも、読んでいて辛くなる。ナニ、ナニ、この本は、人種差別がテーマの、インディアンが虐げられるおも~い話だったの?と、タイトルと表紙絵と漫画風挿し絵に裏切られた気がした。
 ところがさらに読み進めば、またもや予想は覆されて、境遇は厳しいのに妙に明るい。白人は、差別主義者の悪役としては登場してこない。その一方で、インディアンの情けない姿がかなりシビアに書かれる。保留地にはびこるアルコール依存症、暴力、DV、無気力。しかし、主人公はその不甲斐なさを嫌いながら、そうした保留地の人々をとても愛している。とても切ない。それなのに語り口はあくまでも軽い。喜劇的に語って、読むものを笑わせるくせに、切なくさせる。
 このあたりから、わたしは主人公のペースに巻きこまれ、彼と喜怒哀楽をともにし、笑いながら泣き、泣きながら笑い、最後に大きな満足感を得て読み終えた。

 主人公のオレは14歳になり、スポケーン族保留地内のハイスクールに入ったが、すぐに問題を起こす。それをきっかけに、保留地のすぐ隣の、白人が通うハイスクール、家から35キロメートル離れたリアダン校に転校する。
 保留地から出たことで、スポケーン族の仲間からは裏切り者として疎まれる。だが、白人の通う学校へいっても、白人になったわけではない。はみだしインディアン(原文ではパートタイム・インディアン)だ。

 しかし、はみだしインディアンだからこそ、見えること、わかることがある。彼は、インディアンとまったく違う白人の常識や考え方に、異を唱えず、ただ素直に驚き、たじろぐ。そしてインディアンも白人も公正に見て、その見たままを、愛すべき人間の姿としてとらえる。保留地では、幼馴染で乱暴者のラウディー、酔っ払いの父さんや、父さんの友だちでバイクにのるユージーン、引きこもりの姉さん、偉大なばあちゃん……。リアダン校では、過食症のペネロピー、ばりばりスポーツマンのロジャー、熱血のバスケットコーチ、天才ゴーディ……。どの人物も強烈な個性があり、妙なところや弱みがあるけれど、その人ならではのよさがある。
 主人公は、こうした人々に囲まれ、インディアンと白人にはさまれた立場で悪戦苦闘し、ついにインディアン、白人といった人種のわくにとらわれない真理を発見する。

 作者がホーンブック賞受賞のスピーチで語ったことには、この作品は、北米先住民、スポケーン族の保留地で生まれ育った作者の自伝的物語で、78パーセントが事実、ということだ。(あとがきによる)

 たったひとりで白人のハイスクールに入るには、どんなに勇気と根性がいり、どんなに孤独で辛かったことか。作者は、波乱に満ちた日々を喜劇的に書きながら、希望とやる気、勇気をもつことの大切さ、人間のすばらしさをしっかり伝える。そして、決してあきらめてはいけないと、わたしたちを励ます。自分の未来の扉は、自分自身がその気になれば、きっと開く。

 さて、たくさんの登場人物の中でわたしがとくに好きなのは、小さなころからずっと主人公をかばってくれた乱暴者ラウディだ。ラウディと主人公の友情のなりゆきには熱い涙が流れる。もし、ラウディにモデルになる人物がいるのなら、どうぞ、幸せに元気で暮らしていますように。

     書評の達人
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