2019年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« ロング昼休みの読み聞かせ | トップページ | 小学校おはなし会「おはなし広場」のHPをつくりました。 »

2009年10月 8日 (木)

黒と白の融和『ジェミーと走る夏』

台風はあっという間に通り過ぎていきました。8時ぐらいには静かになり、9時半には警報解除の広報が。今は晴天です。

ジェミーと走る夏 (ポプラ・ウイング・ブックス)

 エイドリアン・フォゲリン作
 千葉茂樹訳
 沢田としき画(表紙)

          

 「フェンスをつくらにゃならんな」父さんはいった。(p4から引用)

 隣の売り家を黒人家族が買ったという噂を母さんがきいてきたのだ。
 翌日から早速、毎晩父さんは隣家と隔てるフェンス作りにとりかかる。フェンスができあがった翌日、お隣さんがトラックで越してきた。どんな人たちだろう。わたしがフェンスの節穴からのぞくと、トラックからおばあさん、女の人と赤ちゃんがおりてきた。女の人はフェンスを見て「人種差別主義者」と毒づいている。そのあと、トラックからもうひとり降りてきた。わたしとちょうど同じぐらいの年頃の女の子だ。

「わたし」、12歳のキャスは、フロリダ州タハラシーに住んでいる。隣の家に引っ越してきた黒人の女の子はジェミー。キャスと同じ年だ。ふたりの少女はともに足が速いのが自慢で、走るのが大好きだ。家族には内緒でいっしょに走り、すぐに心を通わす。だが、白人一家と黒人一家、二軒の家の間に立ちはだかるフェンスは高かった。

 黒人と白人、すべての人種は、法的には平等になったが、この物語の舞台フロリダ州タハラシーの社会には、今なお、ぬぐいとれない偏見や差別意識が残っている。また、キャスの家は、貧困な白人家庭であり、キャスの父親は、貧しさから自分が蔑まされていると感じている。白人社会のなかにも格差があるのだ。こうした社会背景のなかで白人のキャスと黒人のジェミー、ふたりのヒロインが出会う。彼女たちの中にも偏見や憤りの痕跡はある。だが、それより、いっしょに走りたいと願う気持ちの方が二人には大きい。走るだけでなく、いっしょに同じ本を読み、いっしょに感じ、いっしょに時を過ごすと楽しい。ふたりは白と黒は関係ない対等な人と人のつながり、友情を築いていく。

 ふたりを支えるのが、ジェミーの祖母グレースおばあちゃんと、キャスの幼馴染の男の子ベンだ。グレースおばあちゃんは差別社会の中で散々苦労してきただろうに、白人に対しても公平な暖かいまなざしを向け、心の大きさを感じさせる。ベンもまた公平なまなざしを持っていてさわやかだ。多くの経験をつんだ年長の人と、まだ染められていないキャスやジェミーもふくむ若い人が同じように公平な目をもっていることが面白い。

 ところで、キャスとジェミーは白人と黒人で肌の色がちがう(ふたりはミルク・チョコレートと自称する)だけで、同じ12歳の少女だ。年齢や足が速いことなど共通点が多い。しかし、互いに独自の人間でもある。キャスは長距離が得意で、ジェミーは短距離が得意といった、肌の色以外の独自性があるのだ。
 この独自性を考るとき、終盤のレースの成り行きは納得のいかないと、わたしは感じながら読んだ。だが、最後まで読み、テーマが白と黒、ミルクとチョコレートの融和だと気づいたとき、このラストでなければならないと理解できた。

 さて、この作品では、アフリカ系アメリカ人の歴史の一部をわかりやすく見せてくれている。歴史は、主にジェミーの祖母グレースおばあちゃんの言葉を通して語られる。バス乗車ボイコット運動、黒人専用学校、そして、黒人奴隷たちが自由を夢みて「ヨルダン川をわたる」とうたう黒人霊歌。また、メードの姿をした黒人人形、家族の歴史が縫いこまれたキルトなどの小道具からも、歴史が感じとれる。

 人種問題に疎くなりがちな日本の子どもたちに読ませたいと考える大人は多いだろう。また、ふたりが読む古典作品『ジェーン・エア』が紹介されているのも、子ども時代夢中で読んだ大人には嬉しくて、子どもたちに読ませたくなる。
 だが、深い内容がぎっしり詰まった作品だ。楽しく読めるのは、おそらく中高生以上の読みなれた子だろう。

Tetu_bn_170

« ロング昼休みの読み聞かせ | トップページ | 小学校おはなし会「おはなし広場」のHPをつくりました。 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 黒と白の融和『ジェミーと走る夏』:

« ロング昼休みの読み聞かせ | トップページ | 小学校おはなし会「おはなし広場」のHPをつくりました。 »

Amazonアソシエイト

  • 野はら花文庫は、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。
  • Amazon、Amazon.co.jpおよびAmazon.co.jpロゴは、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。

NetGalley 本の応援団

  • グッドレビュアー
  • プロフェッショナルな読者