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2009年9月 7日 (月)

心の中に走り続ける「一瞬の風になれ」

読みたい、読みたいと思っていて、ようやく読みました。

「一瞬の風になれ」
 佐藤多佳子作
 講談社

      

  

 神谷新二はサッカー家族に生まれた。父親も高校時代にサッカーをしていたし、兄、健一も名門高校でレギュラーだ。新二も中学生までサッカーをしていた。だが、新二は兄のようにうまくなれないし、試合時には緊張し過ぎて力が出せない。
 高校へ入学するころ、引越ししていた幼なじみの一ノ瀬連がもどってきた。連は天才的短距離ランナーで中学2年の時、100メートルの全国大会で7位にはいったが、3年で陸上をやめていた。
 二人は同じ春野台高校に入学。新二は、同級生の根岸に誘われて、連と一緒に陸上部に入部し、短距離選手になる。

 第1部(イチニツイテ)で1年目、第2部(ヨウイ)で2年目、第3部(ドン)で3年目のオフシーズン、シーズンが描かれていく。
 もともと足は早いが陸上初心者の新二が、陸上部の仲間、ライバル、顧問の先生、兄、両親に励まされ、鍛えられ、支えられ、3年間で記録的にも精神的にもぐんぐん伸びていく。その奮闘、成長ぶりは読んでいて気持ちがいい。とくに、4継(100m×4リレー)、マイル走(100m×4リレー)は、新二を含めた選手ひとりひとり、チーム全体としての奮闘・成長の感動ドラマがある。競技会の描写は、いままさに自分が走っている実感があり、手に汗握って読んだ。
 
 3年間に主人公、新二が努力を積み重ねて記録を伸ばしていくのは、自分自身を見直していく過程でもある。
 新二の前には、小さな時からいつも偉大な兄がいた。素質、度胸もあるけれど努力もすごい兄。兄にはかわない。
 陸上部では天才的ランナー連がいっしょだ。競技会にでれば連より速いだけでなく、パワーのある仙波がいる。追いつけるはずがない。
 新二は常に誰かを追いかけていて、相手はものすごく大きくてものすごく遠くにいる。しかし、自分を上へ上へと、前へ前へと進ませるうち、少しずつ力をつけ、自信をつける。自分の可能性が信じられるようになる。そして、連とも、仙波ともちがう自分自身を知り、自分の走りができるようになっていく。
 
 高校部活、陸上の世界にどっぶり漬かって読める。すべての登場人物のキャラクターが、くっきりと描きわけれられていて実在感があるからだろう。新二とともに、連、仙波をはじめとしたライバルもそれぞれに苦しみながら努力して伸びていく。努力してもなかなか記録には現れないし、天才的ランナーでも簡単には勝てない。そんなところが現実味があって、面白くてたまらない。
 最終巻が大会の途中で終わっているのもいい。彼らの物語が現在進行形だと思えてくる。大会の結果がとうあれ、彼らは、今後も競いながらそれぞれの成長をつづけていくだろう。

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