さわやかで切なく、苦しく、力強くてすがすがしい『トゥルー・ビリーヴァー』
こひつじ文庫のマーガレットさんが紹介されていた本。やっと読みました。
『トゥルー・ビリーヴァー (SUPER!YA) 』
ヴァージニア・ユウワー・ウルフ作
こだまともこ訳
小学館
全米図書賞・ゴールデン・カイト賞受賞作
ラヴォーンは15歳。貧しく暴力のはびこるスラム街に住んでいる。父さんはラヴォーンが幼いころ流れ弾にあたってなくなった。それ以来、働き者の母さんと二人暮らしだ。
ラヴォーンと母さんの夢は、ラヴォーンが大学に入ってこの町をでていくこと。ラヴォーンが通学するのは時々発砲事件がおこるような学校だ。けれど、学校は、優秀な生徒には話し方特訓やレベルの高い授業をして助けてくれる。
子どもの時、引っ越していった男の子ジョディが、ラヴォーンのアパートに戻ってきた。久しぶりに見るジョディは、スケボーにのり、美しい男の子に変身していた。アルバイトをしながら、水泳とダイビングを練習していて、将来は水泳で奨学金をもらって大学へ行くつもりだという。ラヴォーンは一気にジョディを恋した。ジョディは会うたびにさりげなく声をかけてくれ、ラヴォーンはどきどきしっぱなし、気がつけばいつもジョディのことを考えてしまう。
さらに、幼いころからの親友アニーとマートルが過激な宗教にのめりこんでラヴォーンと疎遠になったり、母さんに恋人ができたりと、心を悩ませることばかり続いて、勉強にも手がつかない。どんどんショックなことが起きて――。
『レモネードを作ろう 』(徳間書店)の続編。前作と同じくラヴォーンの独白でつづられていく。15歳の少女の気持ちがそのまま、飾らない正直な言葉で表されていく。自分の変化、周りの変化を敏感に感じ取り、戸惑い恐れ、不安になると同時に期待し希望に胸を膨らます――思春期の少女な繊細な内面が、読むものの心にまっすぐ届き、共感を呼ぶ。
今作では、ぶちあたる難局をどうのりきるがテーマ。
ラヴォーンは聡明だ。アニーとマートルが夢中になる宗教の是非も見極められる。だがジョディのことでは、自分の気持ちばかりが先走り、想像が膨らみ、真実はかすんでしまう。ラヴォーンの言葉が伝えるジョディはとてもさわやか。こんな素敵な男の子が近くにいたら、わたしだって胸がきゅんとなってしまう。
素敵なジョディだけれど、ラヴォーンの想像するようになってはくれない――切ない恋。ラヴォーンは、ジョディだけでなく自分の気持ちすら思うようにできないのだ。ほかにもいろいろ、努力しても思い通りにいかず、ラヴォーンは「のどに熱い固まりがこみあげてくる」のを感じる。
どん底まで沈みこんだラヴォーンだが周りの人に助けられる。押し上げてくれる学校の先生、話し方特訓や特別授業でできた新しい友達、普段は小うるさくてうっとおしいけれど誰よりも愛してくれている母さん。そして、最後には、前に進もうとする自分自身の若いエネルギーで這い上る。
最後の最後でラヴォーンの目の前にぱっとひらけた悟りには、わたしも目から鱗が落ち、心が澄みわたる気がした。なんと、すがすがしくて嬉しくなるラストだろう。この先も、ラヴォーンにはたくさんの難関が待ちうけているだろうけれど、きっと乗り越えていける。と、はっきり信じられる。
さて、前作『レモネード作ろう』のもうひとりのヒロイン、ジョリーが、今作でも元気な姿を見せてくれる。前作で、17歳までに父親のわからない子を二人も生んだシングルマザーのジョリーの生い立ちや生活環境を読んだとき、あまりの酷さに驚き、その地域でもジョリーは特別酷いのだと思っていた。だが、今作で登場するラヴォーンの友だちたちもまた、ジョリーと同じように酷悪な環境下で暮らしている。親がドラック中毒であったり、里親のもとを転々としていたり、子どものころから働いていたり。ラヴォーンだって父親、友だちを殺されているのだ。
ここまで極端な貧困と暴力のはびこる場所は、わたしの周りにはない。だが、極端な場所が舞台だからこそ、メッセージはくっきりと見えてくる。どんな人の道も、先には暗くて見えず、どこかに難関は待ち受けている。スラム街で懸命に生きるラヴォーンたちが、わたしたち前進するものたちに、自分を信じるよう、力強くはげましてくれるのだ。
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