課題図書を読む『そいつの名前はエメラルド』
第55回青少年読書感想文全国コンクール 小学校中学年の課題図書。気張らずに楽しく読める。
『そいつの名前はエメラルド 』
竹下文子作 鈴木まもる絵 金の星社
妹の誕生日、ぼくは、プレゼントにハムスターを買うはずだったが、あいにくペットショップが休みだったのでとなり町の小鳥屋さんへ行く。そこには、奇妙なおばあさんが狸のような猫を抱いて店番をしていた。ぼくは、すみっこの水槽に小さな灰色のトカゲがいるのをみつけ、なりゆきで、ハムスターではなくてそのトカゲを買うはめになる。でも、エメラルドホシトカゲというそのトカゲは、普通のトカゲではなかった――。
「エメラルドホシトカゲ」とは、なんとロマンチックな美しい名前だろう。それに、いかにもありそうな名前ではないか。もしかしたら実在のトカゲだろうか、実在するならお目にかかりたいものだ。と、わたしははじめ、半ば期待して読んでいた。すぐに、作者がつくりだしたトカゲだとわかったのだが、そのころにはもうすっかり、トカゲのかわいらしさに魅せられていた。そして、その先を知りたくてページを繰った。
この作品は、ごく当たり前の日常の生活のなかで、少しだけ現実からはみだした不思議な出来事が起きるファンタジーだ。不思議が起きても日常は相変わらずそこにある。エメラルドホシトカゲが現れたけれど、お父さん、おかあさん、ぼく、妹の4人家族の生活は変わらず営まれていく。
日常はとても自然に描かれている。かっかとしかるお母さん、ものわかりのいいお父さん、家族みんなから愛されているかわいい妹、ちょっと気弱のやさしいおにいちゃんであるぼく。しっかり性格づけられた登場人物はどこにでもいそうで、会話もどこかの家庭で交わされていそうだ。リアリティの土台がしっかり築かれているから、小鳥屋のおばあさん、お父さんが子どものころ飼っていたというカメ、そしてエメラルドホシトカゲといった不思議が、現実味をおびてくる。一風変わっているけれど、なんだか自分の身近などこかにいそうな気がしてくるのだ。
こうした、巧みにさりげなく描かれた日常のファンタジーは、子どもたちにとって、まるまる異世界のファンタジーよりずっと刺激的かもしれない。現実と空想の境界線にあって、現実味があるから、よりいっそうわくわくする。本を閉じれば、自分のまわりにもなにか不思議がかくれているような気がして、まわりが新鮮に見えてくるのだ。
不思議をさぐり、想像しながら、日常をすごすのはとても楽しいではないか。本当に広い世界のどこかにエメラルドホシトカゲがいるもしれないのだから。
bk1 に書いたのと同じ内容の書評です。
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