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2009年4月 5日 (日)

自分らしくあること『第九軍団のワシ』

明日は入学式。中学の桜の開花具合はどうかなと午前中に散歩に出た。まだ7~8分咲きといったところかなあ。そのくせ、すでに葉っぱの出ている枝もあり、寒暖が交互にやってきたために、いっせいに咲きそろわなかったのではと思う。

さて、ローズマリ・サトクリフの>『第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579) 』を読んだ。実は2週間ほど前に読み終えている。ようよう、まとまりないながらも、あらすじ、感想を書くことができた。

第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)
    ローズマリ・サトクリフ作
    猪熊葉子訳

           

 ローズマリー・サトクリフのローマ・ブりテン4部作の1作目。

 ハドリアヌスの壁が物語で重要な役割を果たし、文庫版の表紙は、防壁の写真になっている。ハドリアヌス帝は五賢帝のひとり。先日読んだ『ケルトとローマの息子 』の時代、紀元前2世紀にローマ帝国を治め、ローマ・ブリテンの領土を北方氏族の領土と隔てるために防壁を築いた。

 紀元前117年ごろ、北方の氏族の反乱をしずめるために赴いたローマ軍第九軍団は、全軍が北方で霧のように消えてしまい、謎となっていた。
 消えた第九軍団の第一隊長の息子マーカスは、成人して、ローマ軍の百人隊長となり、地方守備隊の司令官としてブリテンに配属される。しかし、氏族の反乱が起き、反乱は収めたものの足に大怪我をして軍を退き、ブリテンの植民都市カレバに暮らす叔父のもとに身を寄せる。そこでマーカスは、父の第九軍団の象徴ワシが北方氏族の神殿に神として祭られているといううわさを聞く。ワシがあれば父の軍団を再編できるかもしれない。マーカスは、隣家の養女コスティアに自分の勲功章の腕輪を預け、マーカス個人の奴隷であったエスカとともに、国境の北壁をこえて、ワシを奪い返す旅に出る。

 失われることからはじまる物語である。失われていたのは、第九軍団とその象徴のワシ、そして主人公マーカスの誇りと生きる希望だ。ワシを取り戻す旅は、マーカスが自分をとりもどす旅でもあった。

 マーカスに同行するエスカもまた、誇りと自由を奪われた青年だ。もともと族長の息子で、氏族の戦士だったが、氏族が反乱をおこしたとき、ローマ軍に捕らえられて奴隷となっていたのだ。エスカを買いとったとき、マーカスはいう。「生まれおちるとからずっと奴隷だった、というような男じゃないのを」ほしかった、と(P111)。
 マーカスは身の回りの世話をする奴隷がほしかったのでない。自分の心の痛みをわかってくれる友がほしかったのだ。そして最初から奴隷としてではなく、ひとりの人間としてエスカと接する。自分の誇りを理解する主人を得たエスカも、奴隷だからではなく、心の底からマーカスにつくそうとする。二人は、主従を超えた、友情という強い絆で結ばれるのだ。
 また、隣家の養女コティアも、養父母の趣味で、部族の人間でありながらローマ風の暮らしをさせられるのに辟易している。つねに自分を失わないコティアと、マーカスは心を通わせる。

 ローマ人のマーカスに対して、ブリテンの部族のエスカとコティア。ローマとブリテン、ふたつの世界は異なり、互いに理解できない。その現実をエスカがマーカスに教える。だが、マーカスは考える。

 「ひとりひとりの人間についていうなら……中略……このへだたりはせばめることができ、そのへだたりを超え互いに触れ合うことができるようになる。そしてそうなれば、自然にそのようなへだたりがあったことは問題でなくなるのだ」(P147)

 もし、マーカスたちが違う時代に生まれていたら、互いの立場か入れ替わっていたら、それぞれ違う生き方をしただろう。マーカスが考えるように、ひとりの人間は、時代と環境を超えたものである。その一方で、時代と環境なしに人はなりたつことはできないのだ。

 自分であるとは、自分らしく生きるとは、その時代と環境で、与えられた役割を、自分なりに果たすことだろうか。その役割をみつけ、全うしようとするとき、人は誇りを感じ、生きている実感を手に入れることができるのかもしれない。

 ストーリー運びも、中に含むものもすばらしく、ぜひぜひ中坊の息子に読んでもらいたいと思うのだが、息子は最初から敬遠している。ハリー先生のところでも、マーガレットさんのところでも紹介されていた赤木かん子さんの『子どもに本を買ってあげる前に読む本―現代子どもの本事情 』を読まなくちゃ。

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