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発見の物語『ムーンレディの記憶』

カニグズバーグの最新作。

スカイラー通り19番地 』の登場人物のその後が書かれていて、懐かしいです。

ムーンレディの記憶 E・L・カニグズバーグ作 金原瑞人作 岩波書店

          

 ミドルスクール6年生のアメディオは、ニューヨークからフロリダのサンマロへ引っ越してきた。隣のゼンダーさんの家は、エアコンもついていない荒れ家だが、有名な音響技師が設置したという音響設備が整っていた。年老いたゼンダーさんはもうじき高齢者施設にひっこす。
 ゼンダーさんの家財処理を世話している処分屋は、アメディオのクラスメート、ウィリアムの母親だった。この母子は以前、処分される家財道具から価値ある絹の屏風を見出している。
 風変わりなゼンダーさんが気になり、ウィリアムと友人になりたいアメディオは、ウィリアム母子の手伝いを始め、モリディアーニのヌード画を見つける。
 一方、アメディオの名付け親でシボイガンアートセンター館長のピーターは、展覧会の準備に忙しくしていた。そんな折、父親が急逝し、家に帰ると、金庫を母親から渡された。そこには、オランダ生まれの父親が自分の半生を書いた手記が入っていた――。

 母親のおなかの中で命を宿してから、1秒1秒、人は自分をつくっていく。隠したいことも、公表したいこともあろうが、他人がその人にまつわる事実のすべてを知ったところで、その人のすべてを知ることはできない。他人どころか、本人さえ見えない部分が人にはある。人とは、ほんとうにミステリアスな存在である。

 そうした複雑で奥深い人間の姿を、この作品は、発見をストーリーの軸に、巧みな人物・舞台設定と小道具で、描きだしている。

 アメディオは、発見に惹かれる少年だ。ラスコー洞窟やロゼッタストーンの発見など、そこにすでにありながら気づかれないものの発見にあこがれている。また、父親が画家で、名付け親はアートセンターの館長であることから、まだ子どもでありながら芸術への造詣が深い。この物語の導き手としてふさわしい主人公だろう。
 彼の新しい友人ウイリアムもまた、目利きの処分屋である母親の相棒として、かなりの物を見る目、知識がある。ふたりの交わす言葉は、読者に知識を与える。

 観察力と才覚にあふれるふたりの少年が、まずはじめに掘り出していくのは、ゼンダーさんの過去だ。
 このゼンダーさんが、浮世離れしていて、とらえどころがなく、不思議な魅力にあふれている。サンマロの町一の富豪の娘だったゼンダーさんは,少女時代は、世間から隔離されて育った。サンマロをはなれていた時期は、ヨーロッパで歌姫として活躍していたという華やかなうわさだけが伝わっている。サンマロでは、有名だが、その実体は霧に包まれた存在だ。

 一方、サイドストーリーとして、アメディオの名付け親、ピーターの動向が描かれていく。彼がアートセンターで展覧会の準備をしていく様子は、読者に専門的、歴史的予備知識を与えてくれる。また、ピーターの父親の手記がでてきて、父親の過去の一部が紹介される。第二次大戦時にオランダからアメリカへ移民してきたピーターの父親が、ナチスによって運命を変えられた人のひとりであろうことは、読者にも容易に理解できるだろう。

 ゼンダーさんの過去とピーターの父親の過去、そしてアートセンターの展覧会、最初、ばらばらに見えたことが、モリディアーニのヌード画の発見でひとつに集束し、一気に新たな事実の発見へ展開していく。

 発見、発見、それでも、なおかくれた部分、あやふやな部分はたくさん残っている。人はミステリアスな存在なのである。

 さて、アメディオ、ウィリアムのふたりの少年が、はじめて知り合って口をきき、さぐりあいをしながら会話をし、親しくなっていく過程もまた、互いに相手の未知の部分への発見に満ちている。

 そして私自身は、物語、推理の楽しみだけでなく、歴史、芸術を知る満足感――それは、無知な私にとっての発見の喜びを味わった。

 思えば人がこの世に生きること自体が、謎に満ちたことであり、発見の連続なのかもしれない。

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コメント

そらこさん
ありがとうございます。
何のお礼かって?
私は本を読んでもよかったとかおもしろかったとかしか表現できなくてもどかしく思っていますが、こんな風に感じていたことや内容をうまく表現していただけるとうれしくって・・ついお礼を。
私はゼンダーさんにひきつけられました。私もいくつになってもどういう風になっても自分への尊厳、自尊心を失わないでいたいなと思いました。
やっぱりカニグズバーグいいですね。

マーガレットさん

この作品はまとめるのが難しかったです。それに、なんだか、もっと違う言い方ができるんじゃないかと思ったりもします。
ゼンダーさん、りんとしていて、素敵ですよね。この人の一生を思うとき、恵まれていたのだろうか、幸せだったのだろうか、と、いろいろ考えてしまいます。

あー。わかります!
歴史、芸術を知る満足感。
この作品で、私を一番満たしてくれたのは、もしかしたら、それだったかもしれません。
美術館に足を運ぶのは好きだけれど、知識の方は、さっぱり・・・なものですから。

謎に満ちたこの世界だからこそ、人は、前向きに生きていけるのですね。きっと。
若い人たちに、是非、読んでもらいたいなー
生きる力が、もらえる気がします。この作品は。

そうそう。私も、ゼンダーさんがお気に入りです!
お母さんと結婚するために近寄ってきた、貪欲な
男と結婚し、、、そこを読んだときは、胸が痛くなりました。
アメディオとウイリアムと出会ったことで、ようやく
心穏やかな幸せを手にいれたのかな・・・

こももさん

謎に満ちた世界を、面白がって生きるか、不安がって生きるか、ですね。前者でいきたいなあ。

ゼンダーさんのその後のことを考えると、とても複雑な思いです。それでも、りんとしているゼンダーさんが素敵です。

それにしても、処分屋のウィリアム母子を主人公にしたら、シリーズができそう。カニグズバーグさん、がんばって。


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