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事件と驚きの日々

シカゴよりこわい町』、『シカゴより好きな町』、『ミシシッピがくれたもの (創元ブックランド)』古いアメリカの暮らしを、少年少女の目で語るリチャード・ペックの作品は、人間への愛にあふれている。

 今度の作品は、1904年、インディアナ州の辺鄙な田舎が舞台だ。蒸気脱穀機をつかい、自動車が出始めたころだ。すでに大人になった語り手わたしが、自分の15歳の時の出来事を語る。

ホーミニ・リッジ学校の奇跡! (sogen bookland)
  リチャード・ペック作
  斎藤倫子訳
  東京創元社

      

 「わたし」ラッセルは農場の息子で、母をなくし、家族は父と姉のタンジーと弟のロイドだ。弟は10歳、姉は17歳で町の高校へいっている。母の妹のモードおばさんは近くに住んでいて、毎日家事に通ってくる。

 わたしの夢はダコタ州にいって労働者の一団に加わること。いまだに卒業試験に合格していないわたしは、同じく合格していない年上のチャーリーをさそって、ひそかにダコタ州へ行く計画をたてていた。

 夏休みの終わりごろ、村の学校の先生が急病で突然なくなった。学校が閉鎖されるとわたしは喜んだ。とろこが、それもつかの間、姉のタンジーが急きょ村の仮の教師となり、学校を続けることになる。わたしと弟のロイドは、家でも学校でもきつい姉タンジーの監視下になることになったのだ。

 高校も卒業していない姉のタンジーが教師を買って出るとはとんでもないことに思える。「わたし」ラッセルにとっては、それ以上に、とても都合の悪いことだ。生徒たちはあまり出来がよくなく、トイレ火災事件、教卓のなかのヘビ事件など、つぎつぎと事件がおこる。しかしタンジーは自分のやり方で大胆に教師をやってのける。事件と姉の姿にラッセルは驚く。そして自分にとっては男まさりの姉が、男たちの目には美しい娘として映ることにさらに驚く。
 
 事件と驚きの毎日である。作者のリチャード・ペックは彼得意の大袈裟な言葉で「わたし」ラッセルに事件をユーモラスに語らせる。そして、弟のロイドがぽかんと口をあけて見ていたといっては、そのとんでもなさを強調し、おもしろさをかきたてる。実際にはありえない話なのだが、なぜか事実あったことと錯覚させられてしまう。リチャード・ペックの話術の魔術にかけられるのだ。

 村の人たちはみないい人とはいいがたい。詮索好きだけれど、結束しているわけでもない。先生が亡くなったとき告別式はしたもの、しかたなくといった感じでひややかだ。極端な性格の悪い人もいる。それでいて読んでいて暖かいのは、人のやさしさ、思いやりが、ちょっとしたし拍子にちらりと垣間見えるからだ。人間は複雑で、だから人生は意外性にとんで面白い。そう考えると生きるのが楽しくなってくる。

 最初に書いたが、リチャード・ペックの作品では少年・少女の目で観察したままに語られる。まだ若い語り手には計り知れない内面を人はもつ。そうした人々が織り成す人間模様は、語り手には意外性と驚きの連続だ。だからリチャード・ペックは若い語り手を使うのかもしれない。

 もうひとつリチャード・ペックの作品の特徴としては、女の人が老若ともにタフで元気だ。それでいて描かれている時代は女性の地位が低いころなのが面白い。この作品でも「当時は、既婚女性が教職に就くことは法律で禁じられていた」とあり、驚いた。そうした社会に適合して、あるいは、逆手にとって、女性はしたたかに生きぬいてきた。強きもの、汝の名は女なのである。

 

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コメント

私は リチャード・ペックのほかの作品を知らなくて、これが最初だったのですが、よかったです。
父親がいいな。それにそらこさんが書いているように、みんないい人ではないけど生き生きしていて、アメリカのタフな時代の様子がよくわかります。
あとのも読もうと思っています。

マーガレットさん

トラックバック、ありがとうございます。

父親、子どものことがよくわかっていて、わたしも素敵だと思いました。
ほかの作品もきっと気に入りますよ。「シカゴ」はおばあちゃんがすごいっ!!
ぜひ楽しんでください。

私は、シカゴしか読んだことがないのですが・・・
この本、面白そうですね。
マーガレットさんのところで知ってから、読みたくて
ウズウズしています。
そらこさんの書評を読んで、さらに!!!
うー。たまった本をどうにかしなくちゃ!

こももさん

「シカゴ」と同じように語り口がなんともおかしいのです。日本人は物事をこれほど大げさに言わないので、最初ちょっと戸惑いましたが(シカゴを読んでいたのに)、そのうちにすっかり巻き込まれてしまいました。

私も読みたい本はどんどん増えるのですが、最近あれやこれやしていて、なかなか読めません。

でもまあ、のんびりいきましょーって思っています。

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