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2008年6月 6日 (金)

課題図書を読む『ブルーバック』

自然・環境問題がテーマのオーストラリアの本は高学年向き。

ブルーバック

 ティム・ウィントン作
 小竹由美子訳
 橋本礼奈画
 さ・え・ら書房

        

 オーストラリアのロングボート入江に、エーベル・ジャンクソンは母親のゾラと二人で暮らしている。まわりの土地は国立公園で、ジャンクソン一族は百年以上この土地で「海と大地の恵み」を受けて暮らしてきた。父親はすでになくなっている。
 ブルー・グローバーという巨大な魚に出会ったのは、エーベルが10歳のときだ。母親といっしょに海にもぐっていて出くわし、その美しい姿に魅せられた。海よりも空よりも青い色をしているその魚を、エーベルはブルーバックと名づけた。そして、海にもぐっていっしょに泳ぐようになる。

 その後エーベルは、寄宿舎つきの高校に入り、大学に入り、結婚し、海洋生物学者となる。その長い期間の、母と子と入江の姿を追って描かれていく。そこには、自然の恵みと人間の英知がある。
 しかし母と子は一方で、容赦のない自然、そして欲にかられた愚かな人間をも相手にしなければならない。起伏の大きい年月だ。だが物語は淡々と語られる。その語り口は、事実を深くまで見通し、情に流されずに、毅然として行動に移していく母親ゾラの態度と重なる。

 世界的な海洋生物学者になったエーベルが母親のことを、自分より海をわかっているといい、

 「母さんはひとところに腰をすえて、目をこらし、耳を澄ますことで学んだ。ものごとを感じとることでね。--------中略-------母さんは入江の一部だ。だから海のことがわかるんだ。」(p109より引用)

と母を誇る言葉に、自然とのかかわり方への、ひとつのヒントがあるように思える。

 またエーベルを魅了した巨大魚ブルーバックは、自然からの友好大使といえよう。

 さて、この課題図書を高学年の子どもたちは、どう読むだろう。フィクションではあるが、現実の環境問題を垣間見て、どうにかしたいと思うだろう。また、海の美しさ、深淵さ、海にもぐる気持ちよさを体感し、ブルーバックと泳ぐティムやオーストラリアの海中の世界にあこがれるかもしれない。

 そして、ひとり暮らしをする老母の娘であり、大人の入り口に立つ息子を持つ母である私は、母と子の情愛の物語として読んだ。自然と同じように時も、慈しむようにあるいは容赦なく、人を変えていく。永遠にかけがえなく決して切れることのない母と子の、人間らしい尊い関係をゾラとエーベルに見て、大きな感動を覚えたのだ。

     書評の達人
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コメント

ブルーバックのレビュー、楽しみにしていました。
わたしもしばらく前から借りていて、もう一度読みたくて、
今日借り直してきたところです。

自然描写やブルーバックと泳ぐ深海の様子にも惹かれますが、
やっぱりエイベル親子の生き方、特に母ゾラのゆるぎない
生き方が素晴らしいと思いました。
多くの子どもたちに、手にとってもらえたらいいですよね。

琴子さん

いろいろ辛いことも経験してきたのに、湿っぽくないゾラが素敵ですよね。運命に受身の姿勢なのですが、行動を起こすときは起こす。しなやかで強い。なかなか、こう強くはなれません。
そのゾラのすばらしさをしっかり理解しているエーベル、そして「なによ! マザコン」なんて嫉妬せずにエーベル理解する妻ステラにも感銘をうけました。

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» ブルーバック [POCO A POCO]
涼しげな海の表紙が素敵な、夏にぴったりの読物です。 オーストラリアの大自然の中、寂しい入り江で母子二人っきりで暮らす少年エイベル。親子は毎日海にもぐり、自然の恵みを感じながら満ち足りた生活を送っていた。そんなある日、10歳だったエイベルは、母ともぐっ...... [続きを読む]

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