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課題図書を読む『となりのウチナーンチュ』

 タイトルがなに?と思わせる中学生向けの課題図書

となりのウチナーンチュ
  早見裕司作
  理論社

       

 舞台は沖縄。ウチナーンチュとは、もともとの沖縄人のこと。内地の人間をナイチャー、沖縄に定住したナイチャーをシマナイチャーというらしい。

  彩華は、沖縄のアパートに父親の勇とふたりで暮らしている。15歳だが高校に通っていない。自称小説家の勇は稼ぎが少なく、お金がないからだ。母親は離婚した。
 ある日、置物の青蛙神(せいあしん)の蛙が彩華に話しかけてきた。彩華はひとりで神経科へいき、精神安定剤を処方してもらう。

 翌日、となりの部屋へ、彩華と同じ年の女の子、夏海が東京から引っ越してくる。夏海も父親と二人きりだった。父親がリストラされたとき母親は家から出ていったのだ。その母親は生霊となって夏海の前にときどき現れる。夏海は勉強ばかりさせてがみがみいう母親が大嫌いだった。東京では友だちのことやテストのことで学校がいやで、神経科にも通っていた。だが沖縄では学校へ行かなくていいと父親に言われていた。

 彩華と夏海、父親同士もはすぐに打ちとける。殻にこもりがちな夏海だが、あけっぴろげでさっぱりした彩華には心が許せた。彩華にも蛙の声は聞こえた。

 ふたりの少女は、そろってそ父子家庭で、神経科のお世話になる。離婚、精神不安定とは、今の子どもたちの状況をうまく切り取った設定だ。この設定なら憂鬱で暗い作品になりそうなのに、からっと明るく、のんびりしているのが、不思議な物語である。
 それはやはりウチナーンチュである彩華の朗らかさによるところが大きい。こんなに明るくとしっかりした少女は神経科へ行く必要がないように思われるが、 実はものすごく不安を背負っているはずだ。母親はいない。父親は夢をおいかけていて稼ぎがない。学校にもいっていない。見えない将来がどんなに不安だろう。誰にも相談せずにひとりで神経科をたずねる彩華の心細さ、寂しさを思うと、だきしめてあげたくなる。
 しかし、神経科へいく場面も、彩華の視線でおもしろおかしく呑気に描かれている。自分ではどうにもならないことは悩んでも仕方がない、時間だけが解決してくれるとうっちゃっておく。沖縄の言葉で「ナンクルナイサー」というのだろうか。
 ただし「ナンクルナイサー」は、「お気軽な精神の象徴」ではなく、どうしようもない状況のときに身内に対して慰める言葉だ、と作品の中で彩華の父親が主張している。楽観的ともちょっと違う。自分の力で変えられないものは気にしない、そのままにしておくのだ。
 この「ナンクルナイサー」の感覚をつかんだ人間は強い。さばさば生きていける。彩華はそんな子であり、夏海も母親と対決し、身ににつけていこうとしている。

 彼らの人間関係も「ナンクルナイサー」に似た感覚だろう。よく知り合っている。でも、余計な口出しはしない。だからたがいにあけっぴろげになれる。助け合えることは助け合うけれど、干渉しない。彩華と夏海も、そんな関係になっている。彩華がしょっちゅういう「気にしないよ」「気、使わんでいいって」は、自分は自分でいいよという言葉なのだ。沖縄の暮らし、空気がこんななら、わたしも夏海たちと同様にシマナイチャーになりたくなる。

 ウチナーンチュの体質と正反対にあるのが夏海の母親だ。彼女はナンクルナイサーの言葉を娘にかけてあげることができない。前へ前へとはっぱはをかける。それは私たち親にありがちなことだ。娘からあれほど嫌われる母親が気の毒でならない。娘は娘だと、この後はやく気づいてくれるといいのだが……。

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