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課題図書を読む『荷抜け』

これは、高校生向け。市の図書館では一般図書の扱いになっていた。

荷抜け

  岡崎ひでたか作
  新日本出版社

       

 作者あとがきによれば、松本藩での牛方26人衆の「荷抜け事件」の古文書を作者が知り、その事件がどういうものであったかを想像して、牛方、庶民の側から描いたという。

 タイトルとなっている「荷抜け」とは? ご存知のかたもあるだろうが、わたしは知らずに読み、そのためにいっそう面白かったと思うので、ここではふれないでおく。

 主人公の大吉は、信州の貧しい百姓の息子だ。父親は百姓仕事の合間に牛方をし、冬は、雪が深くて牛はひけないから荷を背負って運ぶ「ぼっか」の仕事をしている。大吉の10歳の冬、父親がぼっか仕事のとちゅう、雪崩にあい、川に落ちたと知らせを受ける。母親と大吉、村の衆が探しにいったが父親はみつからなかった。

 それから、天災が続き、大吉は、ますます酷な境遇に陥っていく。貧しさによる不幸は、大吉だけでなく大吉の周りの人々にも、これでもか、これでもかと襲い掛かる。娘売り、赤子減らし、親捨て……。前半は読んでいても気分がめいり、つらくなってくる。しかし、救い手がひとり、またひとりと現れてくる。重労働に耐えて大きな器量を持つぼっこ衆だ。彼らが朴訥に見せる人情の温かみは、まるで吹雪の中を歩いたあと口にした暖かい汁物が五臓六腑にしみわたるように、心にしみいる。
 ぼっこ衆が大吉にかける情が、大吉の情を育てる。だが、大吉に情をかけたぼっこ衆もまた、情をかけられて育てられたのだ。情が情を生み、人々は互いの苦しみを分け合い、互いをかばいあうことでより強くなり、信頼で結ばれていく。
 百姓たちが苦しむ一方で、私腹を肥やすことに執心する問屋、役人がいる。百姓を人と思わず、都合のよいように利用する。

 大吉たちがあまりに苦しい生活をしているだけに、貧富の格差は、私たち読むものにも憤りを覚えさせ、民衆が立ち上がる後半は、心がわきたつ。だが大吉たちの敵は問屋、役人だけではない。自然――信州という土地柄で、とくに雪が阻む。じれったく、はらはらした展開を経て、クライマックスがやってくる。
 江戸時代末期の物語である。物語は静かに終わるが、民衆の戦いはさらに続いたことだろう。 

 そして、平成の世を生きるわたしたちも、忘れてはならない。誰もが大切なひとりであること、情が情を生むことを。  

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