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2008年5月 8日 (木)

人間の修行をする「魔使いの弟子」

おもしろいときいていて、ずっと気になっていた「魔使いの弟子」シリーズ(ジョゼフ・ディレイニー作 金原瑞人・田中亜希子訳 東京創元社)をようやく読んだ。3巻で完結と思いこんでいたのだか、まだ続くのがショック(でうれしい)! だって読んでもすぐに忘れてしまうわたしとしては、シリーズ物はできれば一気に読んでしまいたいのだ。

というわけで、とりあえずは3巻目までの読後感をメモ。

農夫の7番目の息子のトムは、13歳になる年、魔使いに弟子入りする。トムの父親も農夫の7番目の息子、つまりトムは7番目の息子の7番目の息子だ。魔使いの仕事は人々を困らせる魔女やボカートに対処すること。人々を助ける仕事だが、危険を伴い、闇とかかわることで人々に恐れられ、嫌われもする。だが、母親は、トムに魔使いの役割を果たすだけの才能と力があるといって送りだす。

魔使いはトムに講義をしノートをとらせる。1ページ目はなんと「とんがった靴をはいた女の子」と書かせた。「とんがった靴をはいた女の子」に気をつけろというのだ。そのとんがった靴をはいた女の子アリスとトムが出会い、うっかり約束をしてしまったことから、恐ろしいことが起きるのが『魔使いの弟子 (sogen bookland)』だ。
魔使いの呪い (sogen bookland)』は弟子になって半年後、トムは素質を着実にのばし、仕事をおぼえていく。魔使いとともに、魔使いを嫌う司祭たちの本拠地へでかけ、古代の悪霊ベインと戦う。
魔使いの秘密 (sogen bookland)』では、冬になり、舞台は夏の住まいから冬の住まいへと移る。それが暖かい地方に行くのではなく、逆に極寒の地へ移るのが魔使いの仕事らしい。魔使いの元弟子で闇に近づきすぎて危険な存在のモーガンが登場し、トムを窮地に落としいれる。

物語は、3巻とも、魔使いグレゴリーになにか障りがあって、主人公がひとりでやらなければならない状態に陥るのだが、自分で考えて決断し、行動することで難を切り抜けていく。主人公と一体化して読んでいく読者にとっては、実に気持ちいいストーリー展開だ。また魔使いがトムから遠ざけようとする「とんがった靴をはいた女の子」アリスが、肝心なところでつねにトムを助け、トムとアリスが絆を深めていくのも楽しい。

わたしにとって、この作品の魅力は、魔使いがただの人間、しかし意志のきわめて強い人間として描かれていることだ。
魔使いは、呪文で魔法を使うといった不思議な力を持たない。霊や魔女の嫌う塩と鉄、銀の鎖、ナナカマドの杖といったシンプルな武器を使い、穴に閉じこめるといった原始的な方法で悪霊や魔女を退治する。穴掘り人や石工職人に仕事を頼んだりもする。ぜんぜんスーパーヒーローではない。病気にもなるし、恐ろしい目にあえば心身喪失状態にもなる。
巻を追うごとに師匠グレゴリーの煩悩、弱さ、汚点のついた過去も露見してくるのだが、いっそう尊敬したくなるのは、そうした不完全な自分を制して己の役割を果たそうとする姿が尊く感動的だからだろう。
主人公のトムの方も、素直な気優しい少年だが、状況と自分の気持ちによっては、師匠のいいつけを必ず守るわけではない。そのために事態が悪い方向へ進むことも多いが、場合によってはよい結果をうむ。それがまた現実味があっておもしろい。

トムの魔使いの弟子としての成長は、人間としての成長にぴったり重なるのだ。魔使いの修行とは人間の修行といい換えてもいいだろう。トムが物事に真っ向から立ちむかい、失敗しながらも、自分の力で仕事をやり終えたとき、つねに魔使いは「おまえはうまくやった」とほめる。人を認めてやる、人を導くのはこうでなくてはならないと思う。
また、これ以上やれることはない。といった言葉が、魔使しのセリフにもトムのセリフにもよくでてくる。人事をつくす、それが、どんな職につくにしても、なにをするにしても人として大切なのだと考えさせられる。

ほかにもトムの両親、魔使いの師匠がトムにかける言葉には、真実がつまっていて、たくさん書きとめた。

さて、直感を信じろと魔使いはいう。一方で予知能力を信じず、十分な知識から先を読むことができるだけだと考える。つまりこれは、茂木健一郎さんの本で読んだ「記憶を編集、整理」し、それを使うということではないかととても興味深い。頭を使う、賢いとはそういうことをいうのだろう。

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