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2007年8月17日 (金)

アナンシ

 アフリカで生まれ、移民たちにより西インド諸島に伝わったアナンシ話。クモになったり、人間になったりして、ずるがしこいアナンシの血脈とは!?と興味をもって読んだ本。

アナンシの血脈〈上〉
アナンシの血脈〈下〉
  ニール・ゲイマン作
  金原瑞人訳
  角川書店

 ロンドンに暮らすファット・チャーリーは、仕事ができるわけでもなし、遊び上手なわけでもない。それでも、ロージーという献身的な愛にあふれる女性と婚約し、結婚話が進んでいた。そんな折、生まれ故郷のフロリダにいる父親がなくなったと知らされる。ファット・チャーリーは、父親に愛想をつかした母親と、20年前に渡英していた。
 葬儀に出席するためフロリダへもどった彼を、隣人の老女が迎える。彼女は、教える。父親はアナンシと呼ばれた神で、チャーリーには兄弟がいる、兄弟に会いたければ、クモに頼めばいいと――。

 ジャマイカ島の昔話「アナンシと五」は、ストーリーテリングをはじめた頃、おぼえた話のひとつだ。アナンシといえば、そのイメージが強い。サツマイモうりに化けて、アヒルのおくさん、ウサギのおくさんをだまして殺し、ぺろりと食べてしまう。ずるがしこくて、その昔話で説明している通り、「とにかく、わるいやつ」だと思っていた。
 そのイメージが、この『アナンシの血脈』を読んでちょっと、違ってきた。チャーリーの父、アナンシは、他人(特に女性)を楽しませ、いい気持ちにさせるコツを知っていて、めっぽう明るい。悪くいえば、お調子者の女たらし。要領がよくて、ずるがしこい。でもその毒が逆に魅力的なのだ。
 アナンシに魅せられてだまされたものは、腹をたてもするのだが、それでも、心底からアナンシを憎めず、愛してしまう。そうしたアナンシの姿は、被害者はたくさんいるのに訴えられなかったり、被害者から口をそろえていい人だと言われる結婚詐欺師を思い出させる。「アナンシと五」のアヒルのおくさん、ウサギのおくさんも、最期は悲惨だったけれど、その直前まではおだてられて、結構気分をよくしていたから幸せだったという解釈もできるかもしれない。

 ところで、アナンシの息子でありながら毒がまったくないチャーリーは、いい人なのだが、うだつが上がらずださくて退屈だ。いい人が、うまく世渡りし、人によろこばせ、人に愛されるわけではない。人の世の不思議さ、おもしろさがここにある。
 また、『アナンシの血脈』には、アナンシ話が数話挿入されている。アナンシがずるがしこく振舞って、まんまと敵をやりこめる話と、ずるがしこく振舞ったのに、しくじってひどい目に遭う話。要領よくやろうと思っても、うまくいく時といかない時がある。これもまた、人生の不思議さ、おもしろさだろう。

 昔話にしろ、創作にしろ、人生の一面を描くのが、物語だ。

「アナンシの話は、人間が物語を語りはじめたときからずっとある。その昔、すべてはアフリカではじまった。岩の壁にドウクツライオンやクマの絵を描くようになるもっと前の時代から、人間は話を語っていた。サルやライオンやスイギュウについての物語があった。それは大きな夢の物語だった。人間とはそういう生き物だ。物語によって、自分たちの世界を理解する。」(引用上p67)本の中には、そういった文章もあって、どきっとさせられた。

 読後、アナンシのイメージが変わったばかりでなく、「アナンシと五」を、いままでと違った語り方ができる気がしてきた。そういえば、しばらく語ってない。また、おぼえなおして語ってみよう。

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コメント

そらこさん
ものすごーく興味深く読ませていただきました。私も「アナンシと五」を語るので、なおさらでした。
早速図書館にたのんでみようと思います。

マーガレットさん

ぜひ、読んでください。物語も、あちこちにちりばめられていたパーツが、ひとつにまとまっていって、大変おもしろいですよ。

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