中村柾子先生
昨日、県図書館で、青山学院女子短期大学の中村柾子先生の講演があり、おはなし会の後、でかけていった。先生は、前の講演でおはなしをうかがった山田真理子先生といっしょに『いま、子どもたちがあぶない!』(古今社)のなかに登場されているし、福音館の雑誌「母の友」では「絵本・子ども・保育」というタイトルで絵本講座を連載されていらっしゃる。どんなおはなしを聞かせていただけるか、わくわくしてでかけていった。
演題は「子どもと一緒に絵本の世界へ」
一目拝見して、まず、にじみでてくるお人柄にひかれた。おっとりしていらっしゃる。でも、おはなしがはじまれば、どっしりと構えて、言葉がなめらかにあふれてきた。保育現場に36年間いらっしゃっただけに、絵本が子どもの育ちに関わる様子が、ありありと見えてくる。先生が実例をあげて話されるたびに、わたしは、その子の育ちの姿に、涙があふれるばかりに感動した。
先生の言葉で、もっとも心に残ったのは、子どもたちに徹底的に体験させるということ。
ある年、セミとりが園でブームになった。自然に、数グループができて、どんどんセミとりがうまくなった。セミとりの日が何日か続いたあと、はじめて先生は『なつやすみむしずかん』を、子どもたちに読んだ。そこには、いろいろな虫のことがとりあげられていて、セミのこともある。そのなかで、セミが6年も地中にいるのに、地上にでれははかない命であることを、子どもたちは知り、「セミをとるのはやめよう」というような文章にも出会う。1人の子が、「6年って、ぼくが生まれる前からセミは地中にいたんだ」といい、なにか心に引っかかったようだった。だが、その日の午後になるとまたセミとりをはじめた。とろこが、夕方、その子は、虫かごの扉をあけ、セミを放ち、「また会おうな」とさけんだ。先生は、その姿をただ黙って見ておられたという。
この体験談で、わたしは決してしないだろうと思ったことが、3つある。1つは、『なつやすみむしずかん』を、セミとりが幾日もつづいてから初めて読まれたこと。わたしなら、初日に読むかもしれない。2つめは、本を読んで、心に引っかかった子がいても、「そう、セミをとるのはもうやめよう」といわなかったこと。そして3つめは、セミを放った子に「えらいね」とか「やさしいね」といわないで、ただ見守ったこと。
子どもたちは、自分で体験し、感じ、大きくなっていく。大人がするのは、子どもたちを導くのではなく、支えることだ。だまって見守り、ときどき、ちょっときっかけたをさしだす。育ちを待つということを、感動的に伝えるエピソードだった。
こうした子どもたちの育ちの姿を、家族、保育士は目の当たりに見ることができるけれど、わたしのような読み聞かせのおばさんは、そこまで子どもたちをたどって見ることができないのが悲しくも口惜しい。
わたしたちにできることは、本を紹介することで、子どもたちに、ちいさなきっかけをつくることぐらいだろうか。なにが、どの子の心にひっかかるかはわからない。でも、幅広く読む中で、心にとめてくれる子がいたら、うれしいと思う。
さて、中村柾子先生の著書『絵本はともだち』『子どもの成長と絵本』は未読。ぜひ、読んで、子どもと本の関わりを教えてもらいつつ、自分の本を選ぶ目を養いたいと思う。
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コメント
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そらこさん、とてもいいお話を聞かせていただきました。何度も読んで、じんわり感動しています。
子ども自身に任せること、良くても悪くてもまず子ども自身に考えさせてあげること、私自身の心に刻み込もうと思います。
投稿: マーガレット | 2007年6月21日 (木) 15時58分
中村先生のお話、わたしも一度調布の図書館でお聞きしたことがあります。
本当に大事なことを、いつもさりげなくおっしゃるんですね。
待つ姿勢と、タイミングよく差し出す手によって、子どもが大きくのびていく様子が伝わってきます。
そらこさんが3つあげられていた点、自戒もこめて、わたしも心にとめておかなくちゃと思います!
投稿: フラニー | 2007年6月21日 (木) 21時43分
マーガレットさん
中村先生のおはなしは、じんわりと感動できるおはなしの連続でした。子どもってすばらしい力をもっているのだと思います。
情報があふれていて、「頭でっかち」(中村先生の言葉です)になりがちですが、自分で体験して、考えていくことが、ほんとうにその子が生きる力になっていくんですね。
投稿: そらこ | 2007年6月22日 (金) 12時06分
フラニーさん
ええ、さらさらと言葉が美しく流れていくので、メモが追いつきませんでした。先生の著書を読んで、もう一度頭にいれたいと思っています。
わたしも、待つということができず、つい、先回りしちゃいます。保育士や教師にくらべて、親というのは経験も浅いし、視界も狭いし、子どもの未来が見通せなくて不安が大きく、ついということもあるかもしれません。我が子の育ちを信頼するということが、肝心でしょうか。
質問コーナーで、幼児をもったおかあさんが、子どもがちゃんと読み聞かせをきいてくれないことなどを相談されたときに、先生が「いまはそうでも、きっとかわりますよ」とおっしゃったのが、印象的でした。
投稿: そらこ | 2007年6月22日 (金) 12時14分
はじめまして!5歳と6ヶ月の姉妹のママです。8日の山田先生のお話を聴いてからまた一段と我が子達との読み聞かせを含めた関わり見つめ直し考えるようになっていたので、中村先生のお話もお聴きしたかったのですが~中村先生のお話、とってもよかったのですね!!生でなくとも、そらこさんを通してお話が伺え嬉しかったです!何度も読み返しています。なかなか『待つ』ということが日々できず・・・こうるさいくなりがちなママですが、子どもが考えて経験出来るよう声掛けのタイミングに気をつけていきたいと思います。また、お邪魔させていただきます♪
投稿: なつさくママ | 2007年6月22日 (金) 13時00分
なつさくママさん
いらっしゃいませ~。はじめまして。
山田先生の講演会で、ひょっとしてお会いしているかもしれませんね。
5歳と6ヶ月の娘さんがいらして、ちょうど、子育て真っ只中のなつさくママさん、いっしょに絵本を楽しめる子どもさんがいらして、うらやましいかぎりです。わたしは、小6の息子が1人しかいませんが、「わらべ歌でもっと遊びたかった。もっとゆったりと絵本をくりかえして読みたかった」と、今になって思うことがたくさんあります。
中村先生の講演会では、大人としての絵本の選び方、絵の読み方などにもふれられました。わたしもこれから読むのですが、著書を読まれるといいと思いますよ。
また、野はら花文庫へいらしてくださいね。娘さんたちのご様子など、教えてくださると嬉しいです。
投稿: そらこ | 2007年6月23日 (土) 09時59分