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2007年5月 3日 (木)

僕らの事情。

やまねこ翻訳クラブで人気があり、ずっと読みたいと思っていた本。子どもにとっては連休の狭間、夫にとっては長いお休みのなか日、私にとってはなにもすることがない日の昨日、一気読みでした。

『僕らの事情。』デイヴィッド・ヒル作 田中亜希子訳 求龍堂

 ネイサンの友だちサイモンは筋ジストロフィーだ。10年生(舞台になるニュージーランドでは15歳くらい)になる新学期の前、サイモンは新しい電動式車椅子を手に入れた。いままでの手動式は、腕の筋力が足りなくて使えなくなったからだ。だが、サイモンはめげた様子もなく、バッテリーがあがるまで町を散策したり、体育のサッカーで猛ダッシュをしたりする。動かなくなった、めちゃくちゃ重い車椅子を押すのはネイサンだ。そんなとき、サイモンは少しも悪びれずにネイサンに命令をし、憎まれ口をたたくから、ネイサンもいいかえす。

 原書が書かれたのは1992年。そのころネイサンのような筋ジストロフィーの子どもは長く生きられない運命だった。サイモンも、次第に弱り、死に向かっていく。障害だけでなく、間近な死を抱えて生きている。
 しかし、サイモンはとても強い。障害を受けいれた上で、誰にも引け目を感じずに対等の人間であろうとする。彼が自分の体を冗談のねたにし、友達に毒舌をふるうのは、自分を保つためになくてはならないものだっただろう。
 国語の授業でサイモンは、心の奥底にしまいこんだ苦しみを、詩に書く。その詩には、はっと胸をつかれた。

 一方ネイサンは、子どものころからサイモンを知っていたからなのか、サイモンの思いを知っているからなのか、友をあわれむことなく対等の立場でいる。すでに15歳になり、友の病気が理解できる彼にとってそれはものすごく難しいことではないだろうか。同情して涙するほうがずっと楽なはずだ。同じ年の少年でありながら、自分には未来が広がっているのに、親友に未来はほとんどのこされていない。その不公平な運命に対する、複雑な思いに、ネイサンはつねに悩まされる。
 それでも、対等でい続けることでネイサンとサイモンは真の友だちでいられた。サイモンの障害と死を、目をそらすことなく見つめ、できる限り普通の15歳の少年として接しようとしたのはネイサンだけでない。家族も、クラスメイトも、先生も。すばらしい人々ばかりだ。

 サイモンの存在は、まわりに大きな影響を与え、考え、感じさせる。命、生と死。人と人とのつながり。誰もがひとりの人間として存在していること。今を生きること。
 学校で勉強し、友だちと冗談をいいあい、宿題に悩まされ、ゲームをして、女の子について話す。そんな普通の15歳の生活を、サイモンは、許される限り楽しむ。なにげない毎日を過ごすことが、どんなにすばらしいことなのか、サイモンは教えてくれる。
「みなと同じ世界がほしい」という、サイモンの言葉が心にのこる。

 ところで最近は、「障がい」と書かれることが増えてきたが、この本では、
「現在一般的な「障害」を使いました」と、訳者はあとがきで書いている。わたしも訳者に合わせて「障害」とした。それに、サイモンが日本人なら、「障害は障害だろ」といいそうな気がするから。

 

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コメント

最近になって、「障がい」と書くことが多くなってきましたが、それは、「害」という字が、悪いイメージだからという理由なんですよね。でも、実は、元々「障害」という言葉はなかったと、大学の先生がおっしゃっていました(福祉業界の勉強会にて)。
「障碍」と書いていたのに、当用漢字にないことから、後から、勝手に「害」をあてがわれたというのが、先生の意見。「碍」という字の意味は、「さまたげる・じゃまする」。
色々な意見があって仕方ないのですが、私は「碍」が一番、しっくりくると思っているんですよ。
問題は、漢字を無理に直すことじゃなくて、健康な人に合わせて作られた社会で「さまたげられて」生まれるハードルの多さを、みんなが考えてくれる社会を作ること。そしたら、福祉業界の名前論争は、どれも、すんなり収まっていくんじゃないかな~と思うのです。話が大きくそれてごめんなさい。
実は、同じ病気で、同じ年頃で、でも、そんな素敵な友だちや先生に恵まれずに、いじめられてきた、一人の青年を思い出しています。
この本のような関係が現実に築けたら、どんなに幸せだったでしょう。どちらの側にしても。。。今はいない彼を思い出し、どうぞ、こういう本を読んで、理解してくれる人が増えることを祈るばかりです。ものすごく、読んでみたい一冊です。

こももさん

「しょうがい」の字の由来について教えてくださって、ありがとうございます。害という字になったのが、そんないきさつとは知りませんでした。

サイモンは哀れみの目で見られたり、見て見ぬふりをされたりするのを、とても嫌います。だから、一般的に使われている「障害」という字を、気をまわして、「障がい」と書いてしまったら、サイモンはいやじゃないかなと思ったのです。「障がい」が一般に定着していたら(子供と子どもというように)、それでいいのですが……。

ぜひ、読んでください。わたしは、サイモンから生きるってどういうことなのか、教わりました。

筋ジスがどんな病気なのか、TVで見るだけの情報しか知らなかった私も、最近ちょっと詳しくなりました。
妹の末息子が、近い将来この病気を発症することがわかったからです。
本人にとっても家族にとっても、どう接していくことが幸せなのかとても悩みますが、この少年のように自分の人生を受け入れ、素晴らしい友人たちに恵まれることを願っています。
わたしもこの本、読んでみたいと思います。
カニグズバーグもまだなんですけどね(^^;

フラニーさん

医学はどんどん進んでいるので、この本が書かれたときとは患者さんの予後はちがっているようです。それにしても、たいへんなことに違いありませんね。息子はこの本を読んでいませんが、本の内容を話したところ、サイモンの立場なら、やはりサイモンのように、同情されたり、見て見ないふりをされるのはいやだろうと話しました。けがをして松葉杖になったとき、友だちに世話をやかれると悔しかったとも話しました。やさしさ、思いやりというのは難しいですね。
ぜひ、読んでください。

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