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2006年4月 9日 (日)

顔をなくした少年

 ルイス・サッカーの作品は、子どもの生き生きとした姿がユーモラスに書かれていて面白い。サッカー自身も自分の最高傑作といっている『穴』(講談社)、その続編の『道』((講談社))は、小学生高学年以上の子どもの心に、ぐっと食い込んでくると思う。でも、その割りに邦訳が少なく残念に思っていたところへ、待っていましたの邦訳。期待して読んだ。

『顔をなくした少年』 
 ルイス・サッカー著
 松井 光代訳
 新風舎
 
 デーヴィッドは仲間はずれになりたくなかった。それで親友のスコットが、クラスで人気者のロジャーやランディーと、老婦人ベイフィールドさんの家へいたずらにいったとき、のこのことついていったのだ。彼らはベイフィールドさんをロッキングチェアごとひっくりかえし、杖を奪って逃げた。デーヴィッドはその間なにもせずに見ていたが、逃げるときとっさに、中指をつきだして見せてしまった。するとベイフィールドさんは恐ろしい呪いの言葉をいいはなってきた。
 その時から、デーヴィッドに次つぎと災難がかかる。教室で椅子にすわっていて後ろにひっくり返る、理科の実験で先生に持たされた試験管を落とす……。ロジャーやランディーはデーヴィッドを仲間にいれてくれない。そのうえ親友のスコットまでが、デーヴィッドを避けはじめたばかりか、デーヴィッドをダサいとからかって自分の人気集めに利用した。
 ベイフィールドさんは魔女で、夫の顔を剥ぎ取って部屋に張っているという噂があった。災難は、ベイフィールドさんの呪いのせいだろうか……。

 仲間の集団意識からはずれていると気づいたとき、あなたならどうするだろうか。自分をまげて仲間に合わせるか、ひとりを選ぶか。
 デーヴィッドは、はじめ仲間に合わせようとしたが、後にはひとりを選ぶ。しかしひとりになったのは、自主的に選んだというより、受身的にそうなってしまったといったほうかいいかもしれない。まわりからどんなにからかわれようと、なすがままにされていたのだ。
 それでも、スコットのように、心ない仲間にずるずるとひきずられていかなかったのは、デーヴィッドのなかに、他人を思いやる優しさ、正義感の基盤がしっかりつくりあげられていたからだろう。

 でも、自分の心に従って積極的に行動できたら、人間的に、あと一歩前に進める。その勇気を与えたのが、新しくできた友だちの励まし、尊敬していた兄デーヴィッドの情けなさを知った弟からの厳しい批判、両親のあたたかい見守りだ。
 前半、デーヴィッドのいじいじしている姿が読んでいてつらいだけに、突破口から一気に流れだすようなラストは気持ちがよく、やればできると、元気が湧いてくる。
 タイトルにある「顔をなくす」という意味も、ストーリーとからんで二重に明らかになり、納得できるのも小気味よい。

 老人の杖を奪うまでのひどいいたずらは、ここ日本ではあまりにないにしても、子どもたちの人間関係が実にリアルに描かれている。いじめだけでなく、挨拶するだけで心躍る恋も挿入されている。
 ただ、現在進行形すぎる子どもたちにとって、この作品は、あまりに真に迫っていて、読みたいかどうかは疑問。メッセージ性も強く、いじめが社会問題になっていることもあり、大人たちにとっては、読ませたい本だろうが……。
 子どもの性格、立場などを考えて、慎重に薦めなければならない本だと思う。 

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コメント

こんにちは。
何故かこちらのブログにうまくトラックバックできないので残念です。『穴』とも『トイレまちがえちゃった』ともカラーの違う作品で、興味深く思いました。ただ「現在進行形すぎる子どもたちにとって、この作品は、あまりに真に迫っていて」というのは、大人にとっても、かつての痛みに真正面から立ち向かう感じがしますし、まあ大人社会もあんまり変わらないかなあ、と思ってしまいますね。「子どもの性格、立場などを考えて、慎重に薦めなければならない本だと思う。」という大人のスタンスは、かくあるべし、と思いました。 

しんぱちさん

いらっしゃいませ。
トラックバック、できませんか。なぜでしょうね。

>大人社会もあんまり変わらないかなあ、と思ってしまいますね>
わたしもそう思います。ただ子どもは、おさえることなくストレートに行動するので、はっきりと見えてくるのだと思います。

しんぱちさんの「横並び」の人間関係についても、考えさせられます。一定のグループで行動するのがときどき息苦しいな、縛られているなと感じる理由がわかったような気がします。

こちらから、トラックバツクさせてくださいね。できるかな。

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