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2006年1月12日 (木)

錬金術

『めざめれば魔女』を読んだとき、ものすごい衝撃を受けたのだが、この作品は、その男性版といったところ。うちに隠されていたがあるときからめざめていく力を、ただの魔力ではなくて錬金術としたことが、物語の緊迫感をいっそう高めている。

『錬金術』
 マーガレット・マーヒー作
 山田順子訳
 岩波書店

 錬金術とは、本文から引用すれば「化学、魔法、哲学が一体となった中世の研究。」「価値の低い金属を金や銀に変える物質を発見、あるいは製造しようとした研究であると同時に、人間の病気を治したり、寿命をのばすための研究でもあった。」「神秘的な事象をあつかうだけでなく、万物や生命とも深い関係があった。人間をとりまく宇宙と個々の人間との調和をもとめて模索していたのだ。」(p118)

 作品では、さらに、ヘンリー・モア、スティーヴン・ホーキング、ウィリアム・ブレイクといった名前をあげて、古くから人々が宇宙と人間とのつながりについて考え、解き明かそうとしていたことを強調しつつ、主人公の持つ力を説明する。
 目に見えない神秘的な現象が科学の発達でで少しずつ解明されることで逆に、神秘世界と現実との境界線があやふやになり、神秘に惹かれる人が増えている現在、主人公がめざめる力に真実味さが加わってくるようだ。

 物語は、ローランドが繰り返し見る夢からはじまる。夢で4歳のローランドは父親と魔術師の野外ショーを見物し、不思議な体験をする。
 いまローランドは17歳、ハイレベルな学校の優等生だ。父親は、ローランドが10歳で、下の弟が生まれた日に失踪していた。
 ある日、ローランドは、自分でもわからないうちに万引きをし、それをなぜか知っていた教師のハドソンに、目立たない女子生徒のジェスと親しくなれば校長に報告しないと脅される。しぶしぶジェスに声をかけ、家にたずねるうちに、ローランドはジェスと彼女の家に漂う異様さに気づき惹かれていく。
 さらに、いつも夢のなかでみる人物が目の前にあらわれた――。

 ローランドは、自分に隠された力を知り、本来の自分と、他人に望まれる自分に分裂して葛藤する自己を再統合していく。錬金術という名をかりた成長の物語としても読めるだろう。
 うちなる力におぼれたジェスと、その力を自覚しながらも外の世界とつながりつづけようとするローランド。ローランドをつなぎとめたのは、家族との現実的なやりとりだ。
 安らぎであり頼れるがうっとおしくて面倒くさくもある家族の現実が、物語におりこまれる。そのことが、作品の神秘世界に没頭するわたしたちに、現実世界での気づきをうながしてもくれる。

 あとがきによれば、主人公がしばし引用する「貴公子ローランドは暗き塔にきたりぬ」は、スコットランドの古いバラッドによるもので、ローランドは、アーサー王の三番目の息子らしい。
 アーサー王伝説。今年こそ、読まなくては。

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