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2006年1月19日 (木)

『おりの中の秘密』

「以心伝心」は日本人に伝わるすばらしい「わざ」だとわたしは思う。けれども、国際化し自己表現が尊ばれる現在、思いは表現しなければ伝わらないもの、表現しなければ無視されるものになりつつある。
 自己表現は大切だ。でも、相手のうちにひそむ思いを汲み取ろうとすることも、大切なのではないか。そうしたことを問いただす本だ。

『おりの中の秘密』
 ジーン・ウィリス作
 千葉茂樹訳
 あすなろ出版

 11歳になるトムは、言葉が話せず手話で話す。でも聴覚や知能に異常はない。そんなトムを、まわりの人は理解してくれない。
 人間のなかで孤独なトムは、言葉を話さない仲間のいる動物園にいくのが好きだ。ある日、動物園に行ったトムは、雌ゴリラのザンジが自分に手話で話しかけているのに気づく。トムはザンジと心を通わせたが、ある日――。

 人は思いを伝えるために言葉を使う。その言葉を使えないために、思いを伝えられずに苦しみ、まどろっこさを感じながらトムは生きてきた。けれど、人々が言葉に頼ることで、相手や周囲をしっかり見ることを忘れ、大切なものを見落としたり、感じ取れなかったりすることも、トムは気づいている。トムは、人に理解されることを、半分あきらめていたのかもしれない。
 けれど、ゴリラのザンジの思いが無視されていることを知ったとき、トムのいかりは爆発する。ものいわぬもへの無神経な仕打ち。そこから生まれれる、ものいわぬもののゆきどころのない悲しみと憤り。そうしたものを、トムは誰よりも知っているのだ。
 ザンジのために、トムが思い切った行動にうつる後半は、はらはらしながら応援せずにいられない。ラストが胸に熱い。

 こうした本は、子どもたちにぜひ読んでほしいのだけれど、続々と出版される、スピード感と迫力感にあふれるファンタジーとくらべると地味で、かすんでしまうのではないかと心配。

 息子に薦めてみると、案の状、表紙の絵とタイトルを見ただけで断られた。読書は楽しむためのものだから仕方ないけれど、さぴしいな。

 

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コメント

そらこさん、こんにちは。
同じ本読んでらしたんですね。トラックバックさせていただきました。
子どもにはうけないのかもしれませんが、私はとても気に入りました。みんなに読んで欲しいなあ。

あと、「ぼくだって できるさ!」と「錬金術」も手もとにあります。錬金術はそらこさんのレビューを見て、手に取りました。

shoko さん

トラックバツク、ありがとうございます。
わたしも、トラックバックさせてください。

子どもが自分で本を読む年齢になり、子どもと同じ本を読んで、世界を共有したいと親は考えるのだけれど、好みがちがってきて、こちらの思うようには読んでくれません。
考えれば、子どもは少しずつ親と違う世界にすむようになっていくのだから、拒むというのは成長ですね。

そらこさんに記事を読んで、図書館で借りてきました。
素晴らしい本でした。
トラックバックなるものをしてみたいと思いましたが、アナログ人間には、やり方がわからず・・・
コメントではありますが、この感動を伝えたくて。
ありがとうございました!

こももさん

コメントありがとうございます。
トラックバック、わたしもさせてください。

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