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2005年12月16日 (金)

『シャバヌ』

 舞台がパキスタン、ヒロインはイスラム教徒の少女のYA向けの本はめずらしい。
 作者はアメリカ人。西洋とイスラムの価値観が交錯していて、戸惑い、考えさせられる作品だ。

『シャバヌ』
 スザンネ・ステープルズ作 金原瑞人/築地誠子共訳 ポプラ社

 シャバヌは風の民。パキスタンのインド国境近くのチョリスターン砂漠でラクダを放牧して暮らしている。13歳のねえさんプーランは、もうすぐ親戚のハミルと結婚する。12歳になるシャバヌも、ハミルの弟ムラドと結婚する約束になっていた。

 個人主義、自己主張、男女平等が当たり前になっている世界に住んでいるわたしには、家長が絶対的、女性は服従が美徳とされる社会を描いたこの物語は、かなり衝撃的だった。
 シャバヌはそのなかにあって、自由な気持ち、自分の意思を失わない、強いヒロインだ。わたしの目からは、シャバヌをおさえこもうとする両親は横暴に見えるし、つつましやかにして親のいうなりのねえさんは愚かに見える。だが、彼らの社会では、シャバヌは非難されるべき娘なのだ。
 だが、価値観が逆転した世界から人を見つめなおすことで、尊厳な人の魂が、かえってくっきりと感じれられる。どんな状況にあっても、シャバヌのように自分をしっかりもてば、魂は誰にも侵されないと。
 しかし、人は弱い面も併せ持つ。なにかで自分を崩れたとき、魂を見失うこともありえる。どこまで自分を保てるか、疑問も残る。

 この本の魅力は、遊牧民の暮らし、砂漠の情景が細かに生き生きと描かれ、五感を通して伝わってくるところだ。聖地参拝、断食月、婚礼の儀式、ラクダ、レンズマメなどの料理、カルダモンとシナモンの入ったお茶……。書き出せばきりがないほどもりこまれ、そこへ旅した錯覚にとらわれてしまう。

 ラストでは、頼りないほどわずかな希望のひかりがあるだけ。シャバヌの生きる社会では、いたしかたない選択と思いながら、中途半端な終わり方に不完全燃焼。
と思ったら、6年後を描いた続編もある。『ハベリの窓辺にて』だ。今度、読んでみようと思う。

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コメント

こんにちは。
これ私も読んだのですが、やっぱり不完全燃焼。実は続編から先に読んだので、よけいにそうかもしれません。

面白かったのに、ラストが納得いきません。(続編も)さらなる続編があるのでしょうか?

shoko さん、こんにちは。

おお、続編を読まれたのですね。
ささらなる続編ということは、続編も不完全燃焼でしょうか。

bk1の『シャバヌ』に辛口の書評が出ていますね。
西洋の価値観で描いているところに、限界があるのかもしれないと思ったりしました。

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